【スポーツは考える力を育む】SPLYZA CUP 2023 - 鳥栖工業サッカー部・三浦先生インタビュー

2023.09.12 written by SPLYZA Inc.

佐賀県立鳥栖工業高校サッカー部と共同で3年ぶりにSPLYZA CUPを開催。今大会は「スポーツは考える力を育む」をテーマのもと、サッカーを通して社会に出てから必要とされる、自ら課題発見・解決をするための“考える力”・プレゼン力を育んでもらうことを目的としていました。

サッカーの試合だけではなく、試合終了後には「分析会」と称した分析プレゼン大会が組み込まれており、試合結果だけでなく“考える力”での競争を促すプログラムとなっています。一緒に企画を作り上げてくださった、鳥栖工業サッカー部三浦先生へ、大会への思いやその後の変化についてお話を伺いました。



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ーSPLYZA CUPお疲れ様でした。共同主催として企画から一緒に行いましたが、振り返ってみていかがでしたか。

三浦先生
すごく良かったです。チームとしても「振り返る」という部分で刺激があったのと、選手たち自身の振り返りも「継続していきたいこと」と「今後チャレンジしていきたいこと」を明確に分けられる選手が出てきました。

あとは、試合をするだけではなく、ベンチにいる子たちも「こういう振り返りをしたから、こうしよう」など言葉も出るようになって、途中から出る選手がうまく入れるようになりましたね。やることがはっきり合わせられるようになったんだなというのはすごく感じました。夏休みの最初にこの大会を実施して、8月にゲームをしながら強化していくというところの最初のアプローチとしては、すごく狙い通りだったなという印象です。



ーSPLYZA CUPは「スポーツは考える力を育む」をテーマのもと、試合をこなすだけでない大会でしたね。この大会への思いを教えてください。

三浦先生
「試合をしていくことがチームの強化に繋がっている」というのは今も変わらず感じてはいるんですが、プレーだけでなく、プレーする前のところを本気で考えられるきっかけを作りたい、振り返りながらその成功体験とかを得られたらいいなという思いがありました。

”ゲームの入り方の差”や”何をするのか”ということを一方的に提示するだけでなく、選手がわかった上で、やることを合わせていくんですね。うちのチームも50人近くいるので、2チーム展開・3チーム展開する中で...

そうしないと、Aチームはこんなことやって、Bチームはこれというようになると、変更があった時にうまくいかないので、やるべきことを明確に自分の目で見て考えて、入れていくということをしたっかんです。それっていうのは、ミーティングでもできるかなとも思ってたんですけど、他の第三者に”伝える”ということで、より責任感があるということと、1回自分の中に入れてしまえば忘れないかなと。あとは、大会形式にすれば本気になるじゃないですか。



ー具体的に大会の内容について伺います。振り返りの手法として「KPT法」を活用したのですが、鳥栖工業高校としても初めての取り組みでしたか。(*KPT法とは:Keep/Problem/Tryの項目に沿って振り返りを行うフレームワーク)

三浦先生
初めてですね。SPLYZAから「KPT法を使う」と聞いて初めて知りました。






ー初めての取り組みだったと思いますが、先生から見てこの手法の難易度や印象はいかがでしたか。

三浦先生
正直、最初は難しいかなと思っていました。「Keep/Problem/Try」を出していく方法でしたが、問題点(Problem)ばかり出すだろうなと...特に初日は。 ただ、やっていくと意外と「これ継続できる」とか「これはチャレンジする」という声が挙がっていて、 最後の発表を見ていたら、また新たな課題を出していたりと集団で振り返るという時は、選手たちにとって整理しやすいんだなと思いました。この手法は今後、チームでも継続できそうだなと思っています。



ーこのKPT法について、懸念点はありますか。

三浦先生
懸念というより工夫が必要だなと感じる点としては、やはり問題点ばかりが出るのであれば、指導者側が伝える必要があるかなと思います。「問題ばかりを出すのは簡単だけど、その中でも”できること”を見つけていく必要があるよ」というような。あとは、KPT法を取り入れるなら「テーマ設定」は非常に重要だなと思いました。



ー具体的なテーマ設定が重要ですよね。

三浦先生
そうですね、絶対。テーマが漠然としてしまうと、選手たちが振り返ることをいろいろ探してしまって「何に対して」という部分で混乱してしまうのではないかなと。だから今回は、”この分野のこのポイント”というように細かくはっきりとしたテーマをかなり考えました。



ー今回、大会前にちょっとテーマを修正されましたよね。そう言った意図があったんですか。

三浦先生
そうですね。まず、変更したのは具体的に彼らに考えてほしかったので、その基準をしっかり提示するために「秒数」を加えました。

[変更前]相手コート内でボールロストしてからのボール奪取率向上
[変更後]相手コート内でボールロストしてからの6秒以内でのボール奪取率向上

「ボールを失った後、奪い返す」だけでは、「攻め続けられる→シュート打たれる→ゴールキーパーがセーブ→ボール奪取」なのか、それとも「ロスト→すぐに囲い込んでボール奪取→攻撃」なのか。テーマの意図としては後者だったので、今のチーム状況的にどのぐらいの秒数だったらいけるのかなというのを考えて具体的な秒数に変えました。



ーなるほど。テーマの決め方にも工夫していることはありますか。

三浦先生
最終的な決断はスタッフですが、その中に必ず選手たちの意見が入るようにしています。いきなりトップダウンで「これをしなさい」ではなく、ゲーム後の毎回のSPLYZA Teamsを使った反省の中で出たものから抽出して、最終的にスタッフが決断するという形です。

テーマ設定する時に、具体的な数字を入れたいんですよね。例えば「何人」とか「何秒」とか。選手たちがプレーしている中ではわからない部分で、最後全体で見てるスタッフがまとめて出します。



ー「選手の意見も必ず入っている」とのことですが、選手も納得していないと浸透しにくいですよね。

三浦先生
だから最近選手にも聞きますよ。例えば、ゲームの前半でうまくいかなかったところがあったときに、私から「これどうだった。私はこう思うんだけど、どうしたい」と聞くと、選手も考えがあって「いや、このままでいいと思います」と却下されることがあります(笑)もちろん譲れない時もありますが、選手たちにも必ず却下したことには理由があるんですよね。しっかり考えているんだなと思うので、外の視点より中にいる視点からの考えなら肌感覚でもいいのかなと、選手の意見を取り入れることもあります。



ー大切なコミュニケーションですね。分析会で選手が映像分析をしている時は、先生から何かアドバイスをすることはありましたか。

三浦先生
他のチームはわからないですが、うちは1日目は様子を見回って「そろそろだぞ」と、まとめる時間を伝えただけで、特に何か「こうした方がいいんじゃないか」ということは言っていないですね。2日目は、選手たちがやることがはっきりしたんだろうなという感じで、特に声かけをしなくても自分たちで進められていました。



ー今回は「プレゼンテーション大会」というのも大きな特徴でしたね。プレゼンの機会は、選手にとっても良い機会になったのでしょうか。

三浦先生
いい機会になったと思いますね。間違いなく。今の子たちは、人前で話す機会がなかなかないんですよ。うちのチームのキャプテンも1日目のプレゼンテーションで発表しましたが、「全然喋れなかった...」と終わった今でも言っています。人に伝える難しさを実感したと思います。言うことが目的ではなくて、伝えることが目的に変わってこないと厳しいかなと思いますが、今後絶対必要な力ですし、サッカーのゲームもタイムがないので競技的にもあっているかなと。






ー頭の中で思っていることと、いざ言葉にして伝えるのとはまた違いますよね。2日間プレゼンの機会があったと思いますが、先生から見ていかがでしたか。

三浦先生
全体的によくなったなと思います。あと、うちのチームはAチームとBチームで発表のスタイルに違いがありました。Aチームは発表する人を変えたんですよね。きっとテーマに合わせて、この子の方が喋れそうだなと、変えたんだと思うんですけど、そこまで考えていたんだなと。

最初、守備の内容だったので守備の選手が喋っていたんですよ。内容が攻撃の時は、攻撃の選手に変わっていたので、選手たちの考えや気持ちが今どういうモチベーションでいるのかなというのも含めて、すごくわかりやすかったですし、選手の取り組みの変化がすごく見やすかったですね。ゲーム中心の大会だと、そこの部分が見られないんですよね。試合が終わったら宿舎入って自分たちの時間になるので。



ー選手のプレゼンを聞いて新しい発見はありましたか?

三浦先生
ありました。それこそ2日目に発表した子は、「え、喋れたと!?」という感じでした。普段、全然喋らないんですよ。1年生で入った時からどちらかというと寡黙で。発表している姿を見て、「なんでこんな淡々と喋れているんだろう」と意外な発見でしたね。



ー大会後のアンケートの中で、他チームから「鳥栖工業の発表がよかった」というコメントもありました。1日目と2日目で、先生から”プレゼンテーション”に関してアドバイスされたことはありましたか?

三浦先生
「ぶれるな」とだけ伝えました。「色々なことを反省したくなるけど、テーマに沿った形で。自分たちはこのテーマだから、このテーマに対して突き詰めて」と言いました。それ以外は特に言っていないです。あとは、土井さんから”プレゼンテーションとは”について話してくれたことが大きかったですね。すごく。今から就職試験を受けていく子たちがたくさんいるので、一会社の社長からの言葉はすごく刺さったんじゃないですかね。



ー1日目と比較して「話の構成」が工夫されていた、「伝わるプレゼン」になっていた、というところを大きく評価して、鳥栖工業高校AチームをSPLYZA賞(プレゼン大会の最優秀賞)として表彰させていただきました。1日目のプレゼンへのフィードバックを2日目に即実践していたことが印象的でした。

三浦先生
今の3年生は特に知らないことが多すぎて、与えられるとそこにすぐ貪欲に行く子たちが多いです。そういったところも見られてよかったですね。



ープレゼンの経験を通してチームに変化はありましたか?

三浦先生
ハーフタイムの話し合いの「質」が変わりました。いろんな子たちが話をするようになりましたね。大体ハーフタイムは私がもらう時間は2、3分なんです。その後の時間は、自分たちで話しているんですが、試合に出ていないメンバーも「これどうだった。あれどうだった。」と話に入るようになりました。

あの分析会の時にも試合の出場有無に限らず、ちゃんとチームで一緒に考えていたんだなと。誰が発表してもいいような状態に多分なっていて、だから今もすごく話に参加してくる選手が増えたんじゃないかなと思っています。



ー分析会で映像を見ている時も、「チームで話している」ということがすごく伝わってきました。その後、そういう変化があったんですね。

三浦先生
この間合宿に行った時に、 プロジェクターを持っていって分析会と同じようなことをやったんですね。グループ分けして、「グループで話し合いして、終わったら発表してね」と。でも、終わらないんですよ、話し合いが。ずっと話していたので、半ば強制的に話し合いを終わらせて発表に進めました。それくらいチームで話すようになりました。



ー言語化することが活発になったんですね。

三浦先生
なったと思います。



ー今大会は「スポーツは考える力を育む」というテーマでした。このテーマについて先生の考えを教えてください。

三浦先生
失礼になったら申し訳ないのですが、当たり前のことがしっかりと言語化されてるなと思っています。ただ、指導者である私たちも注意しなくてはいけないところがあって、私は、何も付け加えず「考えろ」とあまり言わないようにしています。指導者側から”考えるための材料”を与えたものでないと、選手たちは考えることはできないと思っているからです。だからこそ、この”考える”という 言葉は軽く使えないなと思っているんですよね。

その意味で今回参加していた4チームは、どのチームも同じ思いですごく大事にされてこられていたんだろうなとは思いますが、大人が考え方を間違えると放任に変わる可能性もありますよね。

このテーマには賛成で、いつも何かあるたびに考えますね。「指導者側も考える材料を与えられなかったな」とか、「考えるきっかけを大人が与えられなかったからこの結果になったんじゃないかな」と。カーッとなって忘れてしまう時もありますけどね。

色々な考えはあるんでしょうけど、永遠のテーマになっていくんじゃないかなと。うちのチームにはすごくあっています。



ーこの大会を経て、自チームに活かしていきたいことはなんですか。

三浦先生
試合をすることが最終的なところではあるんですけど、試合に向けての準備のところで大会を通して経験した、自分たちで話し合える・共有し合えることや「トライ→分析(課題発見・仮説を考える)→トライ」というサイクルが当たり前になってほしいです。



ー最後に、今後の目標を教えてください。

三浦先生
チームとしての直近の目標は選手権のベスト8と1部昇格です。






ー今後の成長も楽しみです!今日はありがとうございました。