常葉大学サッカー部・澤登正朗監督&山西尊裕コーチインタビュー

2019.04.19 written by SPLYZA Inc.

2013年1月に常葉大学サッカー部の監督に就任してから7シーズン目を迎える澤登監督。インタビューの場には山西コーチも同席して頂き、欧州サッカーの戦術の話や静岡のサッカーシーンのお話、また分析に関する話題やこれからの指導者としてのビジョンなどをお伺いしました。


澤登監督と欧州サッカーについて

ー今、(インタビューを行なっている)部室で選手がチャンピオンズリーグを観戦されてますが、こうやって選手達と一緒によく試合を観戦されているんですか?

澤登監督:
しょっちゅう観てますね。ヨーロッパの試合もJリーグも。

ーその中でも意識してチェックするチームはあったりするのでしょうか?

澤登監督:
我々の基本フォーメーションが4-4-2なので、アトレティコ・マドリードだったり、4-4-2の時のユベントスの試合については選手と映像を共有したり、一緒に観たりしています。

ーその中で趣向の近い監督のスタイルなどはあったりするんでしょうか。

澤登監督:
スタイルと言ったら山西がよく観てますよ。ファッションの方ですけど(笑)

山西コーチ:
僕はシメオネを意識してよく黒でコーディネートしてますね。監督の立ち振る舞いとか出で立ちって物凄く大事じゃないですか。ペップもグレーのニットセーターが毛玉になっても着続けてるし、クロップもあれ絶対意識してジャージ着てたり派手なガッツポーズとかするじゃないですか。そういう監督の手癖とか仕草の分析は思わずやっちゃいますね(笑)

澤登監督:
まあ、シメオネもそうですけど、指導者の哲学としては自分が動けないといけないっていうのはありますね。トレーニング中に一緒にプレーに入ってボールを蹴ったり、こう動け!ってやって見せることができるのは大事かなと。僕もそんなに頻繁に動いて指導するタイプではないけど、その準備は常にしてますから、その点ではシメオネのスタイルには共感できますね。

ーありがとうございます(笑) では選手と試合の映像を共有する上で、どういった点を重視されていますか?



山西コーチ:
ミーティングとかでもそうですし、例えばさっきも部員が2人来てましたけど、守備で行き詰まったら該当するユベントスの試合を観せて思考を整理させるとか、そういうことにも映像をフル活用してますね。この(先日のCLでの)アヤックスの試合も、相手が4-2-3-1で来た時の対応の仕方とかは参考になるかと思います。

澤登監督:
この試合のユベントスはボール非保持のときは4-4-2だけど、中盤の選手が張り出して4-3-3になったりもするので、観ていて面白いですし、戦術的な部分でも参考になりますね。

山西コーチ:
ユベントスでMFが前に張り出すといえば、うちは守備が得意なセンターフォワードの選手が多いので、ユーベのマンジュキッチみたいに敢えてサイドハーフで起用して中に飛び込ませるっていうのは実践したりしてます。元々彼らが持っているボックス内での嗅覚も活かせますし、前線でのフォアチェックなども選手の長所として発揮できるので。

ーなるほど。そういった起用は面白いですね。自チームの映像分析をする中で、この選手はこのポジションの方が活きるんじゃないか?とコンバートした例は他にもあったりするんでしょうか?

澤登監督:
映像で改めて振り返ると、選手本人の思っている適正ポジションとちょっと違って、別の場所に置いてやらせてみたらそっちの方が機能したりっていうのはありますね。選手個人のパフォーマンスを最大限に引き出せるという意味でも、映像でのフィードバックは大事だと思います。


現役時代の分析のお話と、映像分析アプリ導入後の変化

ーお2人の現役時代と比べて、分析に関するアプローチに変化はありますか?

山西コーチ:
僕の選手時代も分析はあったんですけど、プレーヤーとしては感覚的な部分が大きかったかもしれません。昔と比べて今は「どの場所で、どの時間帯で何回ボールを失ったか」みたいな具体的なスタッツがすぐ出るじゃないですか。僕の周りの人間だと長谷川健太さん(現FC東京監督)が昔からそうで「相手は右サイドからこうやって攻めてくる割合が何%だから、右サイドの対応はこうだ!」って言い切るんですけど、現役時代は「何言ってるんだろう?」って感じでした(笑)。でも実際に試合をするとその傾向は大方合ってたりするんですよね。そう考えると、今の若い子たちはそれが当たり前の環境で育ってきているので、適応も早いのかなって思います。

澤登監督:
私の学生(東海大学)時代にもサッカー部に分析班はあって、当時はピッチをマス目上に分割して「相手のこのプレーヤーはここでボールを持ったらここに動いて…」って撮影した映像を観ながら鉛筆でずっとノートに線を書いていたんです。今でいうところ選手のトラッキングですよね。そうやってアナログでコツコツ分析すると、おおよその傾向は出るんですよ。この選手は右サイドに流れやすいとか、左サイドから攻めてくるとか。それをやってる分析班は本当に大変だったと思うんですけど、特に大会期間中なんかは寝ずに彼らがやって取得したデータを、我々が試合前のミーティングで確認して、それで試合に臨んでいました。

そういう意味では、我々の時代にもスカウティング分析は行われていたけど、例えばデジタル化が進んでより当たり前なものになったり、それに柔軟に選手が適応できるという点では変化があるのかもしれません。

ー当時のスカウティング分析は、試合結果にも影響していたんでしょうか?

澤登監督:
そうですね。相手の長所を抑えている手応えはありました。当時は試合には勝てていましたし、それなりに大会で優勝もできていましたので、効果はあったと思いますよ。

ーでは実際にSPLYZA Teamsを導入するようになって、コーチ陣やチーム、また選手にどのような変化があったか教えてください。

澤登監督:
もう丸2年ほど使わせてもらっていますが、前提として「ITに弱い私にでも簡単に操作できる」というのは非常に大きいです。今まで使っていた分析ソフトの操作が難しかったというのもあるんですが。



山西コーチ:
あとは選手のスマホで簡単に映像が共有できるという点も、導入してからの変化は大きいですよね。

澤登監督:
それは確かに。Wifi環境であればその場ですぐにスマホで観れるというのは画期的ですね。全員で集まらなくてもその場でポンと出せるし、映像を先に共有しておく事で選手への落とし込みがスムーズになります。例えば言葉だけだと伝わらない部分が大きいんですけど、映像としてインプットされるとずっと選手達の頭に残るんですよね。

山西コーチ:
こっちから口頭で伝えるだけだと、選手が違う絵を頭で描いてる可能性もありますもんね。

澤登監督:
それは間違いないです。アプリを通して共有された映像をしっかり観ている選手は、自分の映像パートだけでなく他の選手の部分もチェックしているので、チーム全体のイメージも出来るようになりますし、その分プレーへの落とし込みも早くてより正確になるので、プレーヤーとしての成長度にも大きく影響してくると思います。


静岡のサッカーシーンについて

ー澤登さんが現役の時と、今の世代を比べての違いはありますか?

澤登監督:
今の選手の方が止める、蹴るなど技術的な部分は圧倒的に上手いと思いますが、育成方針がフラットにな傾向にある分、個が際立った選手が輩出されにくい状況にあるのかなという印象です。それが良いか悪いかというのは何とも言えませんが。私含めて、指導者の力量不足であるのかもしれません。

ー国内においてサッカーの文化的な土着度の高い静岡で、トップレベルで活躍している静岡出身の選手が以前に比べて減少傾向にあるのはどういった原因が考えられますか?

澤登監督:
昔はナショナルトレセンや清水トレセンなんかで突出した選手を集めたりして、小学生や中学生、あとは高校生も混ぜてやらせていたんですが、そうすると下の世代の底上げが行われてとんでもないプレーヤーがどんどん出てきていました。今は同じ世代で集めてやっているので、そういう点では同じ水準に慣れてしまって飛び抜けた能力の選手が出てきづらいのかもしれません。それに加えて現状は育成年代でも試合数が多いので、改めて選手を集めて何かやるというのは難しい現状にはあります。ただ、限られた条件の中で成果を出さないといけないというのは、指導者に課せられた命題でもありますので、そこは私含めてしっかりと育成を行わなければなりません。

ー静岡のサッカーシーンを盛り上げていくためにも、J1の清水エスパルスとジュビロ磐田が良い結果を出し続けることも鍵ですよね。

澤登監督:
地元のJクラブの成績は県民にとっては本当に重要で、どちらかが強いだけではダメで、どちらも強くないといけないんです。海外のように強くても弱くてもお客さんがたくさんスタジアムに入るというレベルにはまだ至れていないので、常に勝ち続けているのが理想です。勿論、その時のチームの状況も加味しないといけませんが。




今後の指導者としてのビジョンと、指導者や分析官を目指す方へのメッセージ

ー澤登監督の、指導者としての将来的なビジョンを教えてください。

澤登監督:
現場を持ちながらステップアップしたいということで常葉大学にやってきて、今シーズン7年目ということで、そろそろ次も見据えないとという時期なのかもしれません。そんなに急いではいませんけどね。もちろん将来的には日本のトップリーグで指揮をとりたいというビジョンはあります。

ープロの指導者やアナリストを目指している方々へのアドバイスなどあればお願いします。

澤登監督:
サッカーはプレーヤーだけのものではなく、フロントであったり監督やコーチ、あとは分析官など色々な人が関わっている訳ではありますが、その中で何を大事にしないといけないかと言うと「サッカーが好きであること」は前提として強く持ち続けて欲しいです。あとは自分が「どうなりたいか」を具体的に目標として掲げておく必要があります。

たとえば分析官になるとしても、なるだけならそんなに難しくないと思うんです。でも、並みのスキルしか無かったら現場では必要とされないでしょうね。本人にしかできないもの、スペシャルなものを能力として持っていることは重要だと思います。指導者であれば日本一の指導者になる。この分野なら自分がぶっちぎっている自信がある!というマインドを常に持たないといけないと思います。

ーこれは君にしかできないから、ぜひうちの現場に来て欲しい!と声がかかるのが理想的ですよね。分析官なら、手を動かすのが尋常じゃなく速いとか、人と全く違う視点を持っているだとか。



澤登監督:
まさにそうですね。そのためにはサッカーを他人の何倍も勉強する必要があります。試合も相当観ないといけない。90分間なんとなく観るのではなく、観るポイントを明確にする必要があります。あとは人によっては見解が大きく違ったりするので、いろんな人から話を聞いて「僕はこう思うけど、あなたはどう思う?」というディベートを日常的に行っていく必要があると思います。分析好きな学生さんであれば「マッチレポート書きました!終わり!」では無く、そのアウトプットを色んな人に見せて意見をもらって、検証したり精度を挙げていくことに多くの時間を割くべきだと思います。そのためにも実際にチームに入って現場で経験を積んでいくのは大事でしょうね。

ー試合を振り返る際のポイントとしてはどういうものがありますか?

澤登監督:
まずは1試合1試合にテーマを設けて、それを基準に観る必要があります。その時のチームの状況や対戦相手の強さを鑑みた上で、オフェンス面では縦パスを、ディフェンス面では最終ラインのコントロールやチャレンジ&カバーがしっかりできているかどうかなど、かなり具体的に視点を絞って観るようにしています。球際の強さであったり、トランジションの意識が大事というのは当たり前であって、その中での定義をしっかり決めて、より練度を上げていけるかという部分が試合結果に直結していくと思います。そうすれば、ただ勝った負けたでは無く、なぜそうなったか?というロジカルな部分が付いてきますので、チームとしての積み上げの部分に繋がってきます。

勝負の世界ですので勝ち負けはありますが、僕は勝たないと何も得るものは無いと常に選手達に言っています。僕はそれが勝者のメンタリティに繋がると確信を持っているからなんです。その組織の中で何を目標に頑張れるかといえば、勝利でしかない。そのための映像分析であり、プレーヤーとして、そしてこれから社会に送り出す人間、つまり選手の育成へと繋がると信じています。




ー最後に、2019年の常葉大学サッカー部としての目標をお願いします。

澤登監督:
我々は「謙虚」「責任」「向上心」をチームスローガンとして謳っていて、選手達は常に謙虚であり、自分の行動に責任を持ち、また向上心を持つことで人間として成長するという信条の元、日々研鑽を積んでいます。そしてチームとしては参加する大会全て優勝することが前提です。リーグ戦もそうですし、全国大会にも優勝して出場するという、常に「ナンバーワン」という部分にこだわって戦っていきたいですね。もう一段階上のレベルにステップアップできるシーズンにすることが目標です。