【アルティメットU24日本代表】世界大会での分析プロジェクト始動!現地帯同コーチ&分析メンバーにインタビュー

2023.09.04 written by SPLYZA Inc.

 

2023年7月2日から7月8日にかけてイギリスにて開催された「WFDF2023世界U-24アルティメット選手権大会」にて、分析チームを立ち上げ、イギリスと日本の遠隔で行った「分析プロジェクト(以下"分析PJT"と表記)」。初めて行われたプロジェクトの舞台裏について、プロジェクトリーダーの稲葉拓郎さん、現地帯同コーチの能勢雷人さん、大学生分析メンバーの野澤真奈さんにお話を伺いました。



ー選手権大会お疲れ様でした。各部門、素晴らしい結果でしたね。
(大会結果:オープン男子部門:5位/SOTG*1位・ウィメンズ:2位・ミックス:3位 *SOTGとは:スピリット・オブ・ザ・ゲーム「各選手のフェアプレイに対する責任感」)

能勢さん:
ありがとうございます。




ー今日は、その舞台裏についてPJTメンバーと現地コーチ目線でお話を伺わせてください。まずは、各自自己紹介と今回のプロジェクトでの役割を教えてください。

能勢さん:
能勢雷人です。現在は、アルティメットユースチームの指導などをしております。先日行われた選手権大会では、 オープン部門のコーチとして現地に帯同していました。

稲葉さん:
稲葉拓郎と申します。 今は、アルティメットの社会人チーム「文化シヤッターバズバレッツ」のチームスタッフと、能勢さんと同じくユースチームの指導にも携わっています。

あとは、日本代表チームスタッフにも関わっています。今大会の役割としては、今回から立ち上げる分析チームの中でプロジェクトリーダーとして各部門のリーダーと分析の手法を組み立てるディレクションと、オープン部門にて分析の手を動かす役割をしておりました。
野澤さん:
野沢真奈と申します。早稲田大学のアルティメット部で「ソニックス」というチームに所属しています。大学4年生です。今大会の役割は、主にウィメンズ部門でSPLYZA Teamsを使った分析担当をしておりました。

ーみなさん、よろしくお願いします。今回、このようなPJTチームを立ち上げて分析をするのは初めてですか。

稲葉さん:
はい、代表活動としては組織だってやるのは初めてだと思います。




ー初の試みとのことですが、このようなプロジェクト形式でやろうと思ったきっかけを教えてください。

稲葉さん:
元々、日本代表の強化本部の中長期計画の中で「アナライズを強化していく」という目的がありました。来年はA代表・再来年がワールドゲームズという1番大きい大会があるのですが、今年のU24のタイミングからしっかりとアナライズの中での戦い方というのを身につけてほしいということでスタートしました。

ーなるほど。元々そのような話が挙げられていたんですね。分析PJTの中で、SPLYZA Teamsを活用いただきましたが、最初からSPLYZA Teamsを活用いただける予定だったのでしょうか。

稲葉さん:
他のツールや他の方法も話には挙がっていましたが、自分自身が文化シヤッターでも使わせてもらっているというのもありますし、リアルタイムで行っていく中で1番コミュニケーションを取りやすいと思い、最初から選択肢としてありました。

ー実際に採用いただきありがとうございます。「コミュニケーションの取りやすさ」で採用してくださったとのことですが、実際にSPLYZA Teamsを活用してみていかがでしたか。

稲葉さん:
動画とスプレッドシートを行き来しなくても、コメントや図形字幕が残せることがやりやすかったです。あとこれは副次的なことなのですが、タグをつけて映像を見返すという部分も時短になっていました。ディフェンスセットはオフェンスだけを見る、オフェンスセットはディフェンスだけを見るという活用法ができました。

コメントや描き込みによるコミュニケーションの取りやすさだけでなく、量的分析のために使っていたタグが、実は映像を見るという部分でも更に時短になっていましたね。





ー野澤さんは大学生ということですが、今回なぜこのPJTに参加してみたいと思ったのですか。

野澤さん:
私は、早稲田大学のアルティメット部「ソニックス」に所属していて自チームでもSPLYZA Teamsを使用させていただいています。今回、SPLYZA Teamsを使って分析すると聞いて、日本代表というレベルの高いプレーに対してどのようにSPLYZA Teamsが活用されるのか興味がありました。

その経験を自分たちのチームの分析に使えたらいいかなっと思ったのと、あとは、単純に「分析する=プレーを見る」ということだと思っているので、その代表レベルのプレーを見て技術的に真似られるところがあるといいなと。分析の勉強とプレーの勉強の両方ができると思ったので参加しました。

ー素晴らしいですね。実際に参加してみて、いかがでしたか。

野澤さん:
そうですね、事前に情報分析会(事前にスカウティングとしてチーム情報を集めて分析をする)があったのですが、昔のプレー動画や情報を収集するのは学生だけでは厳しい部分もありました。

でも、アップロードされた動画に対する分析でタグ付けをするなどは、自チームで活用している経験も活かしてスムーズにできたかなと思います。

ー自チームと日本代表の活用法で違いはありましたか。

野澤さん:
実際にプレーの中身や質の部分は社会人の方にお任せしていて、私はタグ付を担当していたのですが、タグの種類が日本代表の方が多いなと思いました。

例えば、シュートの種類について私たちは「シュート」という1括りにしていましたが、細かく分解されていました。使い方自体は同じでしたが、そういった細かさに違いを感じました。

ー「プレーを見たかった」とのことですが、実際に代表のプレーを見てみて勉強になりましたか?

野澤さん:
はい、なりました。日本のプレーは結構細かくて、強みだなと思いました。ウィメンズは2位で、すごくいい成績を収めていましたが、チームメイトにも日本代表の人がいるので感想を聞くと、「海外よりはターンオーバーが少なく、日本人ならではの堅さが出ていた」と言っていました。

ーなるほど。では、具体的な分析PJTの内容についてお話を伺いたいです。今回、全体で40名程度集まったとのことですが、どのようにメンバーを集めたのですか。

稲葉さん:
初めての取り組みだったので、最初は顔が知れている範囲で声をかけまくっていました。各社会人のチームの中でも、SPLYZA Teamsを利用しているチームもあったので、交流が元々あった方々で集まりました。あとは、SPLYZAの力もお借りしてSNSで呼びかけたり、ユーザーに声をかけながら「面白そう」と思ってくださった学生プレーヤー中心に集まりました。

ーメンバー集めの中で苦労した点や課題はありましたか?

稲葉さん:
見切り発車で何をやってもらうかわからないまま「 とりあえず手伝ってほしい」と集めていたので、そこから組み立てるのが結構大変でしたね。各部門の リーダーが3人いたんですけど、そのリーダーを中心に整えてくれたおかげでなんとか形にはなりましたが...

集める時には大変だったのですが、みんなも面白がってやってくれてるのと、代表経験者という方々もいたので関係性でカバーできました。今後、人を集めていくとなった時は集める段階で組織として続けていけるような形を考えないといけないなと思ってます。

ーそう言った苦労があったんですね。最終的には身内だけでなく、初めて繋がる方も参加されたと思いますが、よかったことはありますか。

稲葉さん:
英語が流暢だったり、今までにない角度で試合を見ることができる能力を持った方はいました。オープン部門の分析をサポートしてくれていたのですが、英語の解説など必要なところをピックアップなどをしてもらいました。「こういうこともこの人とならできるな」と新しい繋がりによってできたことがありました。ただ、急速に立ち上げた組織だったので、コミュニケーションが不足したまま解散してしまったことが反省点です。

ミーティングの中で、 もっとコミュニケーションを取れるような形と、時間を作っておかなきゃいけなかったかなと思っています。

ー実際の分析チームでの具体的な活用法を教えてください。

稲葉さん:
はい。スカウティングをメインに、各部門でメンバーを分けてそれぞれリーダーを立てて行いました。「質的分析・量的分析」と、大きくはこの2つの手法で分析を行いました。

質的分析の方はキーマンや選手の特徴、クオリティの部分を分析する班です。量的分析というのは、タグ付けを行って数値から見えるところをフィードバックをしていくという使い方をしていました。 量的分析の部分で特にSPLYZA Teamsを活用しました。

ー実際に分析メンバーはどのように動いていたのですか?

稲葉さん:
かなり時差があったので、動画が上がってくるタイミングや配信があるタイミングを加味して、「ここの時間までにこの国の分析を完了してください」というように、リーダー中心に各部門でシフトを組んでいました。社会人の競技歴が長い方には、質的分析・クオリティー面を、学生の方を中心に量的分析という体制です。

質的分析の面では、各部門ごとに渡し方はそれぞれで、スプレッドシートに記載しているチームもあれば、SPLYZA Teamsの動画付きコメントに書き込んでいるチームもありました。 それを、現地の監督・コーチたちに渡して、監督・コーチたちがその中で必要な情報をピックアップして、 選手たちに伝えるというような流れを1週間続けました。




ー能勢さんは、現地でコーチとして分析サポートを受けた側でしたが実際にいかがでしたか。

能勢さん:
非常に助かりました。この分析のサポートがなかったとしたら、中心の選手や監督・コーチで、試合が終わった後に時間を取って、一緒にビデオを見て、あーだこうだと話をして・・・という形になるので、 その時間が単純にかなり短縮されました。ある程度の情報がある上で、もらった情報と、自分たち現地のスタッフの考えをすり合わせながら、監督・コーチがスケッチブックに情報をまとめて試合の前に選手に、相手チームの選手の特徴などを共有ができたのでかなり助かりましたね。こちらの睡眠時間が取れました。

あとは、キーマンが分かったのが1番役に立ったところです。キーマンの特徴がわかっているのとわかっていないのとでは大きな違いなので...

ー試合が終わった後にミーティングをしていたのですか?

能勢さん:
全員集まってというミーティングはあまりやっていないです。選手もSPLYZA Teamsに入っていて、そこで選手は各自見ていたと思います。

オープンに関しては、オフェンスメンバーとディフェンスメンバーで分かれて、それぞれオフェンスのメンバーは相手がディフェンスのターンの映像を見て、ディフェンスの子たちは相手がオフェンスのターンのターンを見てというので、やっていました。「一緒に見てね」と伝えたので、各ポジションごとに見ていたと思います。

ーなるほど。皆さんにお伺いしたいのですが、分析PJTを実施してみて”実施前”と”実施中”でのギャップはありましたか。想定以上によかったこと、うまくいかなかったことをそれぞれの視点で教えてください。

稲葉さん:
期待していたことで言うと、スタッフ陣の負担軽減です。私も代表チームに帯同していた経験があるので、先ほど雷人さんもおっしゃっていたようなスタッフ陣の負担は想像ができました。あとは、今回に関しては組織立って分析をしていくということは初めてだったので、有用性をどれだけ選手や監督たちが理解してくれるかなというところが目標にありました。協力いただいた分析メンバーのみなさんのおかげで、簡単に勝てた試合もあり、目標としていた、「監督・コーチの負担軽減」と「選手・監督・コーチからの信頼」というところは、想定以上にうまくいったのかなと思っています。

逆にうまくいかなかったのは、この短期間での組織づくりによるコミュニケーション不足ですね。

具体的にいうと、 量的分析をうまく活かしきれなかったかなと。私が質的分析寄りだったこともあり、量的分析に取り組んでくれていたメンバーは、私が作業した情報がどのように役立てられてるのかというのがわからない ままで、やりがいに繋がらないというところがあったのではと感じています。

人数をかけて、作業分担したことがどこまで勝利につながっているかという部分で、コミュニケーションが足りていなかったところもあったので、また9月以降にある代表戦で反省を活かして今後より力を入れていきたいと思います。
能勢さん:
僕は、ギャップはそんなになかったです。ある程度、「これくらいのことをしてくれるだろうな」というのと「してほしいな」という思いがあったのですが、それと大体イコールのものだったので監督・コーチの現場で分析データをもらう側としては、悪い面も含めてギャップはなかったかなと。

ー現地組ではギャップがなかったとのことですが、稲葉さんはじめとした分析メンバーと事前に”考え”のすり合わせなどはありましたか?

稲葉さん:
わざわざ話す機会があったわけではないです。一緒にチームメイトとして経験した期間が長いですし、チームメイトとして活動している中で、SPLYZA Teamsにコメントとかも入れてくれてたので、それ以上に信じられるものはないと いう状態でした。

ーこれまでの経験で、価値観や考え方みたいなところはすり合わせされていたんですね。

稲葉さん:
はいそうです。特にオープンの方は、監督もコーチもトレーナーもさらにその上のコーチも、全員文化シヤッター経由で繋がりがあるので元々やりやすい環境でした。逆にウィメンズとミックス部門は、スタッフ陣も繋がりはありますが0からの立ち上げにはなりました。

ーウィメンズ・ミックスは0からの立ち上げだったということですが、既に土台があったオープン部門以上に意識したことなどありましたか。

稲葉さん:
そうですね...僕ももちろん考えますが 一緒にやっていく上で、それぞれの部門に対して”自分でも考えてくれるリーダー”を立てることですかね。今回は、ウィメンズもミックスも部門リーダーを本当に信頼のおける方々にお願いをしたので、「こういう風にしたい」ということを伝えて、各部門のリーダーが積極的に考えてくれたので組み立てられました。各部門に置いたリーダーの功績が大きかったです。

自分一人で両チームを見て、仕切るということをしていたら中途半端になっていたと思います。今後、組織を作っていく上では、ここが最重要になってくるなと思いました。

ー”自分で考えるリーダー”は組織において重要ですよね。野澤さんは、分析PJTの始まる前と始まってからのギャップは感じましたか?

野澤さん:
始める前に自分が期待してたことは、分析の方法やそのプレーを見るということが主にあったので、チームに貢献するよりかは、”自分たちのため”という方が大きくて。そういう意味では、SPLYZA Teamsの使い方は一緒だったので「これでいいんだな」という自信にも繋がり、やってよかったなと思っています。ギャップというのはあまりないですが、スケジュールの面でうまく合わせられなかった申し訳なさはあります。

ー実際にやってみて楽しかったでしょうか?

野澤さん:
はい、楽しかったです。 なかなか代表レベルのプレーを見ることはできないので、分析メンバーとして便乗させていただきプレーを見ることができたのは貴重な機会だったなと思います。日本が絡んでいる試合はほぼ見ました。

ー能勢さんは、悪い意味でもギャップは少なかったとおっしゃっていましたが、現場で感じた課題やもっとよくできそうだなと思ったことはありましたか。

能勢さん:
そうですね。もう1人、試合を俯瞰で見る余裕のあるコーチのような立場の人がいたらよかったかなと思います。

ライブでの分析も行おうとしたのですが、オープン部門のスタッフは監督と私の2人しかいなかったので、ライブで分析データをもらったとしてもすぐに活用するということが難しかったです。もう1人いれば、分析メンバーとやり取りして即時分析データを活かすということがもっとできたかなと。

ーそれでは最後に、皆さんのそれぞれの今後の目標を教えてください。

稲葉さん:
分析班としての目標としては、今回、こういう形でいろんな方々にご協力いただいて作り上げたものをまず継続させることが目標です。今回出た反省も活かしつつ、コミュニケーションの部分とサステナブルな組織であるというところを、メインに考えていきたいです。「もう分析PJTのメンバーがいないとダメだな」「必要不可欠な組織だな」と思ってもらえるようにしていきます。

あとは、今回はこの分析班をやってく中で、「選手にそのまま落とさない(必ず監督・コーチが間に入る)」というのがポリシーとしてあったんですけど、アンケートの選手からの回答で、「分析があったから勝てました」というコメントがあったんですね。分析メンバーとしては嬉しいんですけど、「 分析がなかったら、どうだったのか。」「自分で考えてできなかったのか」というところも紙一重であって。分析チームとして、”自分たちで考えてプレーをする力”というのもしっかりとつけてもらいたいと思っています。

そういった選手の育成に対しても、選手のリテラシーアップも含めて継続的な目標になります。分析メンバーで何かアプローチすることができないかということと、分析PJTだけでなく、私たちはユース年代も見ているので、今後の日本代表強化に向けては、ここが重要になってくると思います。
能勢さん:
個人的には、アルティメット日本代表のオープン部門が世界一になるというところに向けて、自分が関われるところで関わっていくということが1番ですね。ブログとかもそうですけが、ユースの教育もです。

関わった子たちが日本代表になって、「打倒アメリカ」が達成されれば、自分としては嬉しいなと思っています。あとは、 アルティメット会の金銭面をテコ入れしてあげたいな...と。
野澤さん:
私は大学4年生で今年が最後なので、自チームの目標でもある 「優勝」で終わらせたいです。オープン部門は今3連覇中なんですが、横で見ていてそう簡単なことではないので、残り短いですが自分ができることをしっかりやっていきます。 その1つにSPLYZA Teamsでの分析があると思っています。例えば、日本代表の試合を見ていて、代表選手が多い中京大や日体大は、標的になってくると思います。

戦術や人対策面で、どの人がキーマンで、どういうプレーが得意なのかということの共有や、チームのコミュニケーションを補うためにもSPLYZA Teamsを活用していきたいです。 優勝をめざしていきたいと思いますので、応援お願いいたします。

ーお時間いただきありがとうございました。皆さんの今後の一層の活躍とアルティメットという競技の繁栄を応援しています!