図解で紐解く「サッカーのファクトフルネス」Vol.1

2021.06.23 written by Daichi Kawano(SPLYZA Inc.)

世界のフットボールに関する情報は、日々慌ただしく凄まじいスピードで流れて行きます。それはメディアの大小を問わず、根も葉もない移籍の噂やクラブ運営のゴタゴタ、そして選手のゴシップ記事まで。そうこうしている内にも大局は少しずつ、気づいた頃には大きく動いているものです。

今回から始まる『図解で紐解く「サッカーのファクトフルネス」』シリーズですが、普段私が個人のアカウントで投稿している図解(インフォグラフィックや簡易的なチャート)を通して、サッカーの経営やファイナンス情報、また市場価格や選手の身長といった一見何の変哲もない形態データなどを用いることで、より客観的に、そしてサッカーを通してあなたの世界を拡張し、知見を深めて行くきっかけになればと思います。


死神はただ座して眺めているだけ。止血のできないイタリア、セリエA。



そもそもの資産や流動資産/流動負債なども加味する必要はあるものの、欧州サッカークラブの多くはコロナ禍を迎えるずっと前から延命処置を続けています。中でもセリエAはリーグ全体が病に冒されており、直近20年で150以上のクラブが破産申請をしている状況。その度に新しいオーナーを迎え入れ、しぶとく生き抜いているのです。なおこちらのチャートは2019-2020シーズンの当期損益で、それ以外の売上高/人件費/人件費対売上高比率についてはソース元を参照のほど→Appunti di Luca Marotta


世界経済の縮図:昨今の欧州サッカーを支える米国&アジアマネー



渦中のインテル(中国の蘇寧グループが所有)が入っていなかったり、オーナーの持株比率が折半or国籍が異なる場合など、該当するクラブを全て網羅している訳ではありませんが、こちらの画像にあるように欧州サッカーには多くの(欧州外からの)外資が注入されています。少し前にヨーロッパ・スーパーリーグ構想が立ち上がり、すぐに頓挫してしまいましたが、スポーツビジネスの本場である米国の資本が介入しているクラブが多いことからも、引き続き様々な形で新リーグの構想が掲げられることでしょう。


シント=トロイデンVVを経由した3選手の市場価値が一気に高騰



1つ前の画像でもピックアップしていますが、欧州クラブのオーナーとして日本企業が参画しているシント=トロイデンVV(以後STVVと表記)。そのSTVVを経由した日本代表の冨安、鎌田、遠藤の3選手は市場価値を一気に高め、現在ではビッグクラブへの移籍も取り沙汰されているほどに成長しています。

ここで読み違えてはいけないのは決して「STVVに所属した」ことだけが彼らの価値を高めた要因ではないという事です。移籍先での活躍こそが重要なファクターです。なおSTVVは18-19シーズン、ベルギー国内リーグを7位でフィニッシュするなど、ショーケースの役割も果たしタイミングよく3選手を送り出すことが出来ました。直近2シーズンは降格圏手前の順位に留まってはいるものの、確固たる経営ビジョンに則ったクラブの強化施策は、いまのところ実践できていると言えるでしょう。

またこれらの3選手はJリーグに居たころと比べ、欧州の市場に乗る事でマーケットバリューが指数関数的に増加しています。野心を持った若い選手達にとって、どれだけ「欧州挑戦」が魅力的であるかは一目瞭然。ただ、欧州に挑戦しても日本国内にいたころより市場価値を落としてしまう選手(現在ポルティモネンセに所属する安西など)も存在しているため、日本を出るタイミングや新たな所属先選びは、(代理人含め)より慎重になる必要があるでしょう。


どこからでも得点を奪える、隙のない川崎フロンターレ



2021年のJ1も川崎フロンターレの快進撃が続いています。彼らの強みはその選手層の厚さに加え、誰が出てきてもクオリティが落ちないという徹底したチームスタイルの浸透に尽きるでしょう。また、ハーフシーズンでこれだけ得点を挙げておきながらも、1人としてハットトリック達成者がいません。特定の選手に極端な負荷をかける訳でもなく、誰かが欠けても他の選手でカバーできる、連携のとれたチームビルディングを体現しています。このあと有望な若手選手が幾名か、欧州への挑戦で居なくなることが予想されますが、それでも大崩れする懸念はなさそうです。


Jリーグで将来的にビッグクラブとなりうるポテンシャルを持つ5つのクラブ



いまやサッカーをはじめとするスポーツ観戦は、スタジアムに足を運ぶことだけを指すものではなくなりました。試合前後にインターネット上で交わされるファン、サポーターのとりわけエモーショナルな発信(UGC=User Generated Contents)は多くの価値を生み、新たなる市場を生み出しています。サッカークラブにおいて試合の勝ち負けは1つのファクターに過ぎません。純粋に応援だけをしていたファンも今や昔、魅力的なで発言力のあるサポーターやインフルエンサーの存在は、クラブ側も無視できなくなってきています。

Jクラブの公式Twitterアカウントのフォロワー数ですが、実は2018年以降ほとんど変化がありません(直近2年間でもおおよそのクラブが数万人フォロワーを増やした程度)。国内市場としての需要がここから爆発的に増えることは今のところなさそうです。ファンの多さがクラブの魅力に繋がる事からも、ここでの上位5クラブが、近い将来「ビッグ5」として君臨する可能性は高いと言えます。


EUR02020開幕。もっとも贅沢なスカッドを抱えるのは…



パンデミックの影響で開催が1年遅れたEURO2020。Transfermarktの評価によると推定市場価格のトップはイングランドの11億9000万£(約1850億円)。次いでフランスの9億2520万£、ドイツの8億4285万£と続いています。今大会出場の24カ国における最小の値は北マケドニアの5562万£。なおナショナルチームのスカッドの価値の総和はクラブチームよりも直接チームの成績と相関しないことがほとんどで、今回もランキング5位以下のイタリアやベルギーも優勝候補として名を連ねています。


CL決勝を戦った2チームから、今大会に合計32名もの選手が送り出される



過去大会の傾向をみる限りは偶然といえますが、今季CLファイナルを戦ったチェルシーとマンチェスター・シティが、最多となる16選手をそれぞれ今大会に送り込む形になっています。ちなみにここに入っていない著名なクラブ(こちらのチャートは5選手以上を今大会に派遣したクラブのみ)ですが、南米やアフリカといった欧州エリア外の選手を多くスカッドに抱えていたり、A代表にギリギリ選ばれない主力級の若手(もしくはベテラン)で回しているケースが多いようです。なおチェルシーは過去のW杯でも数多くの選手をそれぞれの大会に派遣しているクラブでもあります。


代表選手の体格をチャートで比較。デンマークが2021年のチャンピオンに。



こちらは2021年のナショナルチーム別体格(平均身長/平均体重)チャートで、FIFAランク30位以内の国を対象としたもの(30位ベネズエラの体重のソースが見つからなかったため、31位のイランを繰り上げで扱っています)。なおバブルチャートは選手の推定市場価格平均で、その国の強さを表しているとお考えください。2018年のW杯ではセルビア代表が身長/体重で覇権を握っていましたが、今年はデンマーク代表が平均で186.5cm/81kgとフィジカルチャンプに。

エリア別でみてもヨーロッパ、特に北欧は際立っていますね。ほぼ欧州生まれ欧州育ちの体躯に恵まれたセネガル代表がこの位置にいるのも納得。ちなみにちびっこ側にカテゴライズされる日本代表はチリ代表とほとんど一緒。もちろん身長と体重でサッカーをやる訳ではありませんが、切り口によっては身長も重要なファクターになるようです。


現代サッカーにおいて身長は重要か?バイエルン・ミュンヘンの一例



欧州サッカー界において"超名門クラブ"の1つとされるバイエルン・ミュンヘン。当クラブにおける過去50年間での選手の平均身長を調べてみると、平均身長は約5cm伸びていました。特に顕著なのは高身長が求められるゴールキーパーとセンターバック、そしてチーム内の身長の振り幅は8cmから18cmと2倍以上になっています。これらからも判るように「サイズが必要なポジションはより大きく」が傾向としてあり、結果として"選手の大型化"は未だに続いているようです。

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次回は今年の秋ごろ、Vol.2をお届けする予定です。お楽しみに。


プロフィール:河野大地 (Daichi Kawano) デザイナー/アナリスト

宮崎県出身。約10年の広告制作会社勤務ののち、長年趣味で行なっていた映像編集技術やデータ分析、インフォグラフィックに関するスキルを買われスポーツテック業界へ2018年に転籍。現在は株式会社SPLYZAにて試合映像分析アプリの開発・運用にUI設計&デザイナーとして携わる。4児の父。

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