【サッカー未経験の戦術ブロガーから全国大会出場校の分析官へ】興國高校サッカー部分析官・松村さん&内野監督インタビュー

2020.02.20 written by SPLYZA Inc.

昨年末、悲願の初全国大会出場を決めた興國高校サッカー部。そこで分析官として、主に対戦相手のスカウティング分析を担当する松村さん(@kawan_1129)は戦術ブロガー出身。サッカー未経験ながら全国レベルのチームで分析官として活動されています。今回は普段行っている分析の流れや内野監督とのやりとり、そして内野監督からもコメントを頂いたインタビュー内容になっています。

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ー松村さんはもともと”いちサッカーファン”として趣味で戦術ブログを書かれていたとの事なのですが、本格的にサッカーの世界に踏みこんでみようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

松村さん:
僕自身関西在住なのですが、「関西でも指導者や分析官を育成できるセミナーを!」という名目で始まったFEP(@official_FEP)というアナリスト養成講座に、現在奈良クラブで監督を務める林さんが講師として登壇された際に参加したのがきっかけです。当時はロシアW杯の直前ということもあってか、皆さんの熱量が著しく高かったように記憶しています。

SPLYZAさんがそのFEPのセミナーにツールを提供されていると思うんですけど、SPLYZA Teamsのヘビーユーザーである興國高校サッカー部が映像分析のアシスタントを募集しているということで、たまたまその時期によくやりとりしていた、FEPを主宰されている大井さん(@takumioi)を経由して僕に声がかかった。という流れになります。



ー内野監督とのファーストコンタクトはどんな感じだったんでしょう?

松村さん:
分析官をやるにあたって最初の面談で、自身がサッカー経験が無いということを最初に内野監督に相談したのですが、「ピッチ上でサッカーをプレーすることと、映像を観て試合を分析をすることは別物なので、そこは自信を持ってやってくれたら。」と内野さんに言われて自分の中でモヤモヤしていた部分がクリアになりました。

その上で、内野監督が対戦相手の分析でどのような情報を欲しているのか、また自分の得意な分析手法などもそれぞれ摺り合わせて、分析を進めていくことになりました。


※松村さんが実際に試合映像にタグ付けを行った画面

ー実際に、どのようにタグ付けや分析をしているのでしょうか。

松村さん:
メインとなるスカウティング分析では、定性的な分析を行う前にまず「相手チームのどの選手が、どこのエリアからどのような頻度で前方へのパス、および前進するプレーを実行しているか」などを中心に、SPLYZA Teamsのタグ付け機能で集計してcsvで書き出したのち、スプレッドシートにまとめつつ、気づいたポイントなどを添えてレポートとして提出しています。

自分から提案することもあるのですが、監督から具体的に「この時間帯から相手がフォーメーションや攻め方を変えてきているので、これ以降は別のレポートとして欲しい。」などとポイントを絞った上で分析を行うこともあります。

ー分析の結果、例えば相手のウィークポイントがデータとして現れたり、または興國高校のこの形が相手にハマりそうだ!といった情報は、監督にどのように伝えるのでしょうか。

松村さん:
具体例で言うと、大阪大会決勝の阪南大高校戦ですね。相手はずっと4-4-2で大会を勝ち進んできていて、前線の2枚で積極的にプレッシングにくるんですけど、興國が大会の途中からやり始めたボランチの選手が最終ラインに落ちて、3センターバックの形でビルドアップ&プレス回避するっていうのがかなり機能していて、それは映像で相手のスカウティング分析をしていても「今の興國のやり方は必ず阪南大相手にも通用するし、それによって優位に試合を進められる。」という確信がデータからも見て取れたので、レポートを提出する際にもそのように伝えました。

ー阪南大高校との大阪大会決勝の映像は私も拝見したのですが、興國高校は個人戦術のベースがしっかりあって、そこにチーム全体としての狙いが共有されているように映りました。



ー話変わって、最初にレポートを提出した時の内野監督のリアクションはどんな感じでしたか?

松村さん:
監督の直感や経験則だけでなく、目に見えてデータになっているので非常にわかりやすいとのことでした。そのあと監督とやりとりをする中で、レポートもブラッシュアップしたりしつつ、分析の精度も少しずつ上がってきているとは思います。

ー今回、興國高校サッカー部として初の全国大会だったわけですが、松村さんとしてもスタッフして貢献できた!という手応えはありますか?

松村さん:
自分としては正直、僅かながらでも役に立っていれば。ぐらいの感覚だったのですが、内野監督からは「すごく力になってくれているので、今後もぜひお願いしたい。」という言葉をいただいて有り難かったです。今後、分析官としてより頑張らないといけないなと思いました。


※分析レポートの一部。レポートに使われているテンプレートはこちら

ーTwitterを見ていてもここ数年で戦術好きな人が物凄く増えていて、一部の方が年代問わず様々なチームに分析官として参加するというケースも徐々に増えてきています。松村さん自身、今後のキャリアの目標などはありますか?

松村さん:
プロのチームで分析官をやりたい!といった様な具体的な目標はまだ持っていなくて、今は自分の経験値を溜める時かなと思っています。あとは現状の自分のスキルがどこまで通用するのかを試しているというか、そういうフェーズですね。大学生の身なので、まずは目の前のことに集中して、ゆくゆくはサッカーもしくはスポーツに関わる仕事に就くことができれば良いなと。漠然とですが考えています。

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今回は合わせて、興國高校サッカー部の内野監督にもインタビューさせていただきました。


※つい先日、J1王者の横浜F・マリノスに異例の「同時3選手加入内定」が実現した興國高校サッカー部。写真右が内野監督。

ーチームの分析スタッフとして松村さんが加わって以降、監督やチームとして助かっている部分はありますか?

内野監督:
普段のチームスケジュールとしては日曜日に試合があって、月曜日の午後にミーティングがあるんですが、松村さんは日曜日の夕方ぐらいにSPLYZA Teamsにアップされた試合の映像に対して、月曜日の午前中までにほぼ完璧にタグ付けと分析レポートを提出してくれるのでめちゃくちゃ助かってます。

試合の映像ってその日の試合会場の撮影環境だったり、あとは天気によってかなり見辛くなるじゃないですか。それでも松村さんはしっかりパスを出した選手の背番号を把握していて、正確に分析してくれています。早く作業するだけだったら誰でもできると思うんですが、しっかりとしたクオリティがあるのでかなり信頼してます。

それと、普段お願いしている作業やレポートに加えて「映像を分析していく中で気づいたポイント」なんかをまとめて出してくれるところは有り難いですね。こうやって気が効く人は本当に貴重なので、本人に断られるまではお願いし続けるつもりですよ(笑)



ーそれは素晴らしいですね。あと、お答えいただける範囲で構いませんので、データやレポートを実際にどのように活用されているのかを教えてください。

内野監督:
例えばレポートの中に「バブルチャート」ってあるじゃないですか。ゲーム中にプレーに関与すればするほど泡が大きくなるやつ。あれは視覚化という意味でも物凄くわかりやすいですよね。もちろんバブルが大きい=キープレーヤーという訳ではないので、実際に映像を観たりしながら補足的な情報として活用しています。あとは特定の選手の縦パスやロングパスの頻度をみて「相手のビルドアップを遮断するために、ここに積極的にプレスをかけよう!」といった感じで生徒達と共有しています。

あと分析レポートについては、MTG前に生徒達それぞれにLINEでも共有していて、対戦相手のスカウティング情報であれば「データをどう使うか」の判断はある程度は彼らに委ねるようにしています。最初はデータを信じすぎてピッチ上で混乱してしまう時期もあったんですが、時間が経つにつれて与えられた情報を柔軟に活用できるようになっていきました。ウチはプロを目指す選手も多いので、プロになっていきなり対戦相手のデータを渡されて右往左往しないという意味でも、良い刺激になっていると思います。


※バブルチャートを活用したレポートのサンプル

ー生徒さん達にある程度委ねている。というのは内野監督らしいアプローチですね。

内野監督:
もちろん全部を判断させている訳ではなく、MTGで擦り合わせを行ったりはしますが、監督が決め打ちで「こうやれ!」って言っても本人達になかなか入っていかないですからね。今回こういう形で分析官がスタッフとして入ってくれたことで、対戦相手の情報が更に入ってくるようになって、実際にピッチ上での判断材料も増えたので彼らも本当に助かっていると思いますよ。

ー初の選手権出場という結果がついてきたのも大きいですね。来年も全国大会の出場、期待しています。最後に、興国高校サッカー部としての今後の抱負をお聞かせください。

内野監督:
正直に言うと、選手権に出場し続けることにそこまで重きは置いていないです。今回のデータの件もしかり、ありとあらゆる情報を駆使して興國の選手個人やグループとして、いかにしてフットボールの質を上げていけるか。その点にこだわりたいですね。今年も自分たちが理想としている"質の高いフットボール"を実践していって、その結果、全国の舞台で初勝利を挙げることができればいいなと思っています。