バスケットボールを数字で分解する。~みんなに知ってほしいFour Factors~

2019.06.27 written by Genki Suzuki(SPLYZA Inc.)

今回は”スタッツの視点からの振り返り”を「バスケットボールを数字で分解する」と題して、その考え方や方法を紹介していこうと思います。バスケットボールでは「スタッツ=数字」です。この数字で分解することによって、今までにはなかった新たな気づきが得られたり、今までなんとなく感じていたものが確信に変わることがあります。

「バスケットボールを数字で分解する」の考え方は、B.LEAGUE2018-19シーズンで史上最多勝利数を記録した千葉ジェッツのビデオアナリストである木村和希さんの考え方に、私がインスパイアされてまとめたものです。一度木村さんのアナリストとしての考え方をお伺いする機会があり、そこで今まで私の中にあった分析に対するモヤモヤが晴れ、ストンと腹に落ちました。今回ここで考え方を公開するにあたって、木村さんは「日本のバスケットボール界全体に分析をする文化がもっと広まってくれたら」と公開の許可をくださいました。

私の知識と経験に、木村さんの考え方を取り入れてまとめた「バスケットボールを数字で分解する」は誰でもできます。少しでも皆さんの参考になってくれたら嬉しいです。

※2023年4月24日(月)に、本記事の執筆者による解説ウェビナーを開催しました。当日のアーカイブ動画を無料で視聴いただけます!(アーカイブ視聴のお申し込みはこちら)



分解するための必須アイテム

それは、シュートの本数やリバウンド数が記録された「ベーシックスタッツ」です(読み進めていく上ではなくても大丈夫です!ご安心を!)。1度は表やグラフでスタッツを目にしたことがあると思います。現在ネット上には色んなバスケットボールの公式スタッツが公開されています。画像の左下は昨年のウインターカップ2018のスタッツです。公式ページで1回戦から決勝までの全ての試合のスタッツが公開されています。今回、自チームのスタッツがない方は下記公式ページのスタッツをご参考ください。


<画像引用元>
画像左上:NBA公式ページ  画像右上:FIBAワールドカップアジア予選公式ページ
画像左下:ウインターカップ2018公式ページ  画像右下:B.LEAGUE公式サイト


Four Factorsとは・・・

副題にもなっている「Four Factors(以下:4Factors)」はオフェンスを評価する指標であり、「バスケットボールを数字で分解する」においてキーとなる指標です。この指標はバスケットボール版のマネーボールとも言われる「Basketball on Paper」の著者で、NBAで初めて統計学者として雇われたディーン・オリバー氏が15年以上も前に提唱したものです。現在も使われています。戦術や技術も含め、常に進化し続けているのになぜいまだに使われているのか。その辺にも触れながら、算出方法、意味をお伝えしていきたいと思います。

では、少し前置きが長くなりましたが、ここから今回の本題になります。残念ながら1番最初は4Factorsではありません。バスケットボールをキッチリ分解するには順序が大事です。ということで、まずこちらの図1をご覧ください。

▼図1

当たり前ですが、バスケットボールは時間内により多く得点したチームが勝利するスポーツです。バスケットボールを分解するためにはまず得点から分解していきます。
次の図2に進んで、得点を分解していきましょう!

▼図2

得点は攻撃の質と量で決まります。攻撃の質はPPPと略される「Point Per Possession(得点効率)」です。攻撃の量はPOSSとも略される「Possessions(ポゼッション、攻撃回数)」です。得点はこの掛け算になります。POSSでは”オフェンスリバウンド数を引く”ものが一般的ですが、オフェンスリバウンド後の攻撃も1つの攻撃と見なすため、ここでは敢えて引いていません。

次はこのPPPとPOSSを分解していきましょう!図3です!

▼図3

PPPとPOSSを分解をしていくとシュート成功率やリバウンド、ターンオーバーなどのベーシックスタッツにたどり着きます。しかし、PPPとPOSSからいきなりベーシックスタッツを見ても、何を見ていいのか分からず迷子になります。そこでやっと「4Factors」を使います。中間にある4FactorsでPPP&POSSを分解することでベーシックスタッツのどの項目を見ればいいかを示してくれます。

ようやくここで4Factorsを解説していきます。次の図4をご覧ください。

▼図4

4Factorsは攻撃の終わり方にフォーカスした指標です。バスケットボールはシュートを打たなくては得点できません。TO%によってシュートにたどり着いたかどうかが分かります。シュートにたどり着いた場合のシュート効率がeFG%で分かります。また攻撃開始からシュートまでの間にファウルが発生すればFTを獲得でき、高確率で得点できる機会が生まれます。そして、シュートが外れたとしてもオフェンスリバウンドを取れば再度攻撃することができます。その攻撃権を再度得る部分をORB%で評価できます。

ベーシックスタッツだけで見ると、シュート本数やリバウンド数、TO数などはただの値でしかありません。例のように、シュートを外した本数によってリバウンド獲得機会に差が出ます。するとオフェンスリバウンドの数字だけでオフェンスリバウンドを評価できないということがわかります。

図5はバスケットボールの攻撃の終わり方とその結果をまとめてあります。この中でどこに4Factorsが関わってくるかを示してあります。

▼図5

バスケットボールは如何に緑の「PTS」にたどり着くかです。「PTS」にたどり着けなくても、シュートを打ったのなら、オフェンスリバウンドで「OFF Restart」にたどり着くことが重要になってきます。この図からTO%を下げ、eFG%とFTRを上げれば、得点に繋がることが分かります。そして、ORB%を上げれば、再び攻撃できることが分かります。得点に繋げればPPPが上昇し、再び攻撃に繋げればPOSSが上昇します。

ここまで勝敗を決定する「得点」から分解し、4Factorの内容と意味について触れてきました。次の図6ではこれらをまとめ、試合全体を数字で分解する考え方を1枚に表現しています。それぞれ関連するスタッツは縦に並べています。

▼図6

左の矢印は「勝敗との相関」を意味しています。上の項目ほど勝敗に与える影響度が高く、下がっていくほど低くなっていきます。また反対に、右の矢印は「試合の分解度」を意味し、下にいくほど分解されていることを示しています。

4Factorsは図6のように直接関連するベーシックスタッツに分解することができます。eFG%はもちろん2Pと3Pのシュートが直接関連しています。4Factorsに直接関連するベーシックスタッツがあり、次にそれらに影響を与えるスタッツやプレーがあります。ブロックを例に挙げると、単純にシュートを落として2P成功率が悪い場合もあれば、相手のブロックが多く2P成功率が悪い場合が考えられます。それがこの「影響を与えるSTATS/プレー」です。こちらは分解度が高くなり、より具体的な要素になっています。その分試合の結果には直結しません。敗戦後に、いきなり「影響を与えるSTATS/プレー」に目を向けても敗戦の原因を見つけることは難しいです。「木を見て森を見ず」ってやつですね。

流れや考え方は以上になります。では、これまでやってきたことを活かして、新米のコーチA君にとある試合を振り返ってもらいましょう。(図7~9)

▼図7

まずは計算になります。画像内のスタッツを用いて、計算していきます。

▼図8

計算するスタッツはPPP、POSS、eFG%、TO%、FTR、ORB%の6つです。手計算はなぁ~、という方はこちらの<Advanced STATS算出シート>をどうぞ!Googleスプレッドシートですでに計算式を入力済みです。入力するだけで自動で計算されるようになっています。

いよいよ、ここから分解に入ります!コーチA君が各数字を見ていきます。なにやらコーチA君が両チームの数字を見てブツブツ言ってます。

▼図9

*コーチA君が気になった部分、疑問点をマーカーしてます。



▼図10

「試合中からもっとよく見とけ!」とお叱りをうけそうなコーチA君でした(笑)が、実際に数字を出して振り返ってもらいました。この1~5までのように得点から順に数字を追っていくと、どこが良かったのか、どこが悪かったのか、見えてくるものがあります。そして、6で映像で実際に確認し、7のように練習に活かすことができれば、確実に練習の質が向上します。

どの試合を分解するにしても、この順序、流れがブレないようにやっていくことが大事になってきます。ブレない分解が一貫した評価へと繋がっていきます。自チームならば時系列で変化を追うことができますし、相手チームのスカウティングならば他チーム同士を比較することができるようになります。


まとめ

「Four Factors」の解説と「バスケットボールを数字で分解する。」を紹介してきました。

PPPやPOSS.(ポゼッション)、4Factorsといった有効なスタッツに興味を持ったり、取り入れようと考えている方の背中を押すことができたら嬉しいです。正しい理解と使い方が広まり、数字での分析が一般的になれば、日本のバスケットボールの底上げにもなると考えています。

ここまで色々(偉そうに?)スタッツについて語ってきましたが、スタッツは絶対ではありません。スタッツだけでは見えない部分が必ずあります。それと同様にコーチの感覚だけでは見えない部分もあります。ただ、この2つ「コーチの感覚」と「スタッツでの評価」のコンビは互いに足りないところを補えるような関係です。私はどちらも大事にすべきで、どちらも大事にしたときに、今持っている最大限のコーチとしての評価力が発揮できると考えています。得点で質も量も求めるように、コーチとしての感覚もスタッツを用いた評価も追い求めていきましょう!



また、冒頭でも紹介させていただいた千葉ジェッツの木村さんに、最も影響を受けたのは図7の全体的な分析の流れ、考え方の部分です。木村さんが見せてくださったのはこちらの図(←クリックすると見れます)です。こちらは木村さんのアナリストとしての考え方の軸をまとめています。私はこれを元にしたお話を伺い、一気に雲が晴れた感覚を得ました。木村さん、公開の許可をくださり、本当にありがとうございます。「ジェッツチャンネル」では木村さんが動画でスタッツに関して解説されています。今回読んでいただいた方はぜひそちらも観てみてください!今回は本当にありがとうございます。



プロフィール:鈴木元気(Genki Suzuki)カスタマーサクセス

1990年生まれ、静岡県出身。鹿屋体育大学に進学し、大学2年次にプレイヤーを引退し映像アナリストを担う。卒業後は、教員を目指しつつ、大学、中学校、高校と様々なカテゴリーの男女バスケットボール部を指導。2018年に株式会社SPLYZAに入社後、その指導経験、教員経験を活かし、「スポーツは考える力を育む」というコンセプトのもと、“SPLYZA Teams”のユーザーをサポートしている。2022年4月より浜松学院大学男子バスケットボール部のアシスタントコーチにも就任。

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