
【ウインターカップ2019直前企画】数字から見る高校バスケの秘密 ~ファストブレイク&シュート編~
2019.12.23 written by Genki Suzuki(SPLYZA Inc.)
いよいよ令和初となるウインターカップ2019が12月23日(月)から開幕します。高校生が1週間に渡って激闘を繰り広げ、高校の頂点を目指す大会です。しかもなんと今年は過去最大の全60校が参加となります。こちらではそのウインターカップをより楽しめるような記事となっております。他では絶対に見られないようなデータも使って、高校バスケの秘密を探っております!!
SoftBank ウインターカップ2019
令和元年度 第72回全国高等学校バスケットボール選手権大会
なんといっても今回の注目校は、第1シードに位置する福岡第一高校だと思います。昨年のウインターカップでは全試合20点差以上つけての優勝。今年のインターハイも見事優勝し、先日の天皇杯で千葉ジェッツ相手に見せた好プレーの数々は記憶に新しいです。前評判通り優勝するのか、それとも他の強豪校は我こそはと倒して優勝するのか、スポーツに絶対はありません。特に高校生は!本当に注目の大会です!
▼トーナメント表はコチラ!
(ウインターカップ2019大会公式HP:https://wintercup2019.japanbasketball.jp/)
数字から見る高校バスケの秘密とは??
一般的にファストブレイクは得点できるものと考えられて、日本では「堅守速攻」を重んじるチームも少なくありません。良いディフェンスから走ってアウトナンバー(数的優位)を作り出し、ゴール付近のイージーシュートで、確率よく得点しようとしています。しかし、実際に高校生の試合を見ていると、そうではないのではないか、と思うことがありました。それは、「結構速攻でターンオーバーしてない?」でした。思い返してみると、速攻出そう速攻出そう、として、ディフェンスの位置を確認せずにパスを出してしまったり、判断を早くしようとしてキャッチミス、パスが長すぎる短すぎる、など思い浮かぶシチュエーションが結構あります。ということで、今回は「高校生のファストブレイクってどこまで有効なの?」を数字の側面から検証していきます。
また今回は、ここ最近は当たり前になってきた「シュートの期待値」。こちらにも触れていきます。「シュートの期待値」とは、3Pで確率が40%なら期待値は1.2点、ロング2Pは確率が50%!でも期待値は1.0点。それなら3Pを多く打った方が得点の期待値も高いよね?というあれです。NBAではヒューストン・ロケッツが特に有名でしょうか。Bリーグでもこれに当てはめてオフェンスをデザインしているチームは少なくないと思います。では、日本の高校生の「シュート期待値」は実際にどうなのか?NBAと同じように、リングにアタックor3Pを打つ、の方が良いのか??そうは言ってもミドルの方が確率もいいし、3Pを特別優先せず2Pも狙うべきでしょ!なのか数字の側面から迫っていきたいと思います。
今回の検証方法
今回は昨年行われた「SoftBankウインターカップ2018 平成30年度
第71回全国高等学校バスケットボール選手権大会」の準決勝2試合と決勝戦、3位決定戦の計4試合を対象とします。またこの検証は公開されているボックススコアで行うことが難しいため、この4試合をSPLYZA
Teamsにてタグ付けし、そこから割り出されたデータを使用し、検証していきます。
<対象試合>
1. 準決勝「桜丘高校 vs 福岡第一」
2. 準決勝「帝京長岡 vs 中部大第一」
3. 決勝「福岡第一 vs 中部大第一」
4. 3位決定戦「桜丘高校 vs 帝京長岡」
▼使用したタグ一覧
では、まずはファストブレイクから見ていきましょう!
高校生のファストブレイクの有効性
ここでは、各攻撃パターンのTOVとPPPを比較して、ファストブレイクの有効性を見ていきます。TOV%は(その攻撃パターンで発生したTO)÷(その攻撃パターンの試行回数)、PPPは(Point Per
Possession、その攻撃パターンが1回試行されたときの得点期待値)です。では、数字からファストブレイクの有効性、実態を見ていきましょう!
▼各攻撃の形でのTOV%とPPP
なんとファストブレイクのTOV%が最も高いという結果となりました。速攻って本来チャンスなのに15%以上TOしていることになります。にもかかわらず、PPPにおいては、1チームが1試合で平均10回以上試行して攻撃の中では、ファストブレイクの値が最も高く、ファストブレイクの得点力の高さが伺えました。シュートまで持っていけていれば、高確率で決めていることが伺えます。
TOV%は高いものの、PPPは頻度の高い攻撃の中では高く、「高校生のファストブレイクは得点力もあり有効である。」と考えられます。
しかし、高い方のファストブレイクの得点期待値でさえ1.0を超えてきませんでした。「得点期待値が1.0」というのは1つのラインです。バスケットでは1回の攻撃で2点取れるので、2回の攻撃で1本シュートを決めていれば1.0を超えてきます。「得点できる攻撃」と考えられているファストブレイクが、2回1本平均でシュートを決められていないのは「高校生の課題」と考えられます。TOという得点に全く繋がらない結果で終わっていることが1つの原因です。
この速攻のTOが多いことは他の問題もあります。それは速攻のTOは相手の速攻に非常に繋がりやすいことです。”逆速攻”という言葉もあります。ファストブレイクのTOから逆速攻があることを踏まえると、その後の「失点期待値」が高いと考えてもいいかもしれません。
ここまで踏まえると、「高校生のファストブレイクは得点力もあり有効であるが、TOの危険性も高く、ただファストブレイクを出そうとするだけでなく、ボールの進め方、考え方を習熟させておく必要がある」とここまで言及したいと思います。
ちなみに、こちらは各チームのファストブレイクのTOV%と期待値です。
福岡第一でもTOV%が15%を超えています。ただ、PPPは唯一1点を超え、なおかつ他チームの倍以上施行しています。留学生のスティーブ選手が味方以上に走るシーンも少なくない福岡第一です。このTOV%でも他チームにPPPで差をつけているのは納得かと思います。
<番外編>
BLOB(ベースラインからのスローインセット)よりSLOB(サイドラインからのスローインセット)の方がTOも少なく効果的でした。私自身はBLOBは唯一ゴールの裏から始める攻撃であり得点力が高いと考えていました。母数が少なく偶然かもしれませんが、BLOBはペイントエリアが密集しているため得点が難しいと思いました。
また個人的にはセットオフェンスのフリーランスオフェンスを上回ったことが予想通りの結果ではありますが今年のウインターカップを楽しむポイントである裏付けとなったと考えています。1stオフェンス、大事な場面など、いつ、どのようなセットオフェンスをコールし展開するか、楽しみにしたいと思います。
次はいよいよシュート期待値!行ってみましょー!!
高校生のエリア別シュート期待値
全4試合を合計したエリアごとのシュート期待値をコート上に色で示しました。シュート期待値(PPS:Points Per
Shot)は「1回の成功で加算される得点×シュート成功率」で計算します。簡単な例として、コーナーでの3Pを60%の成功率で決めていたら、「3×0.6=1.8」といったように割り出すことができます。では下の図を見ていきましょう。「グレー→黄色→オレンジ→赤」と赤くなるにつれてシュート期待値が高いことを示しています。
▼4試合合計のエリア別シュート期待値
高校生のシュート期待値の実態ですが、なんとNBAで当たり前になったシュート期待値の理論にかなり近い結果となりました!やはり期待値だけで考えると3Pはほとんどの2Pを上回るようです。もちろん日本のトップレベルの高校生であり、シュート力もトップクラスなので、高校生全員に当てはまるとは言えません。しかし、1つの大きな指標となるのではないでしょうか!やはり最高値はゴール付近、ゴール下のシュートです!しかも、ゴール下でファウルを貰ってフリースロー
も獲得していることを考えたら、実際の期待値はもっと高いでしょう!
ここでこのシュート期待値ベースに高校生のシュートの優先順位を考えてみました。
▼高校生のシュートの優先順位
自分の結論としてはまずリングにアタックしよう!ということです。2位と3位に関してはもしかしたら逆の方もいるかもしれません。しかし、期待値で考えると、2位はフリースローが80%として、期待値が1.6点と相手のファウルとなります。3位は3Pは入っても50%と考えると期待値は1.5点。もちろんシュートファウルはあまり発生しません。何よりファウルは相手のプランも崩せます。そうなると、やはりこの順位かと思います。
<番外編&実は大事かも!のコーナー>
こちらが最初に例にも挙げたNBAのヒューストン・ロケッツの2019-20シーズンのエリア別シュート期待値です。(~2019年12月17日SAS戦)
▼ロケッツのエリア別シュート期待値(data via NBA Stats - NBA.com)
さすがです!!まずシュート期待値が高いです!全体的に高校生よりも高いのが一目瞭然です。しかし、トップと左サイドのウィングを見てください!高校生が期待値で勝ってます!!さすが日本トップレベルの高校生!!カテゴリーは違っても太刀打ちできる数字もあるんです!!
ただ自分がこれを見て、何より凄いのはロケッツの徹底のレベルです!ロング2Pに関しては27試合を終えて、4試合の高校生と試投数がほとんど差がありません。戦術としてアリかナシかは置いておいて、この徹底レベルは凄まじいと思います。
最後に気になったのは、「ハイポスト付近」。ゴールしたを除く他の2点に比べて倍近く打っています。ナゼ??自分はこのように考えました。
どうでしょうか??賛否両論、いや否が多いことも覚悟しております。今やピック&ロール(以下:PNR)はトレンドだった頃も越えて、当たり前のグループ戦術になりました。日本の高校生も当たり前のように使っております。その結果、NBAと高校生に共通した傾向が出たのではないでしょうか。
最後に各高校のシュート期待値も載せておきます。昨年爆発し、アメリカでもステップアップ、ネブラスカ大学への編入も決めた富永啓生君のシュートが記憶に蘇ってきます。
▼各高校のエリア別シュート期待値
まとめ
昨年のウインターカップ2018を振り返ってみましたがいかがだったでしょうか?今年のウインターカップ2019でファストブレイク出た瞬間に「キター!!どうなる!?!?」と楽しめそうではないでしょうか?また勝ち上がって行けば行くほど、ターンオーバーの質も変わってくると思います。そこまで見て楽しめたら、今までの倍は楽しめるでしょう!もちろんファストブレイクだけでなく、ピック&ロールに対してコーナーにしっかりステイして待てるチームを見たら、それだけでおっ!となりそうです。でも、これに関してはウインターカップレベルなら当たり前かもしれません。
さらに、高校生のプレーを見た後にBリーグやNBAを見て、ファストブレイクの質やシュート力、戦術の違いを楽しめたら、さらに観戦が楽しくなると思います!
また、今回これを見て、少しでも日々の練習や試合に生かしてもらえると嬉しいと思っています。高校生における攻撃の形によるTOの傾向やシュートの実態など、今までデータとしてはあまり見ることがなかったと思います。選手個人の特徴はもちろん、期待値なども踏まえて、オフェンスをデザインし、それを実行、成功させる、そのどこかにここで得たことを活用してもらえたら嬉しいです!
最後に、皆さんウインターカップを楽しみましょう!未来の渡邊雄太が、八村塁が、と将来有望な選手がいるだけでなく、純粋にそこでの勝利を求める戦いが見ることができます!高校生には3年間しかなく、必ず終わりがあります。だからこそ、そこにかける想いに素晴らしいものがあります!もちろんを会場に足を運ぶのが1番オススメです!私も見に行く予定です!(笑)皆さんもぜひ!!