EURO2020決勝を"Tactical Lineup"で振り返る

2021.07.14 written by Gaku Morita(SPLYZA Inc.)

2021年6月12日に開幕し、7月12日の決勝ではイタリアがイングランドに勝利し53年ぶり2度目の優勝で閉幕したUEFA EURO 2020。1ヶ月間で51試合が行われ、各チーム個性豊かなスタイルを披露し、国のプライドをかけた真剣勝負を多く見ることができました。

今回は、大会公式サイトにまとめてあるデータ、特に"Tactical lineup"という資料に注目して、決勝戦を振り返ってみます。(公式サイトのStatsデータを見ることができます)

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今大会は51試合で142の得点が生まれました。ポルトガルが優勝した前回大会(EURO2016)は51試合108得点。スペイン優勝の前々回大会(EURO2012)は31試合76得点と、過去2大会と比較して、得点が多かった大会であったと言えます。

【参考】各大会の1試合あたりの得点数
EURO2012: 2.45
EURO2016: 2.12
EURO2020: 2.78



時間帯別の得点を見ると、後半立ち上がりの時間帯が最も多かったです。各チームがハーフタイムで的確な修正を行っていたことを示しているのかもしれないです。

また、優勝したイタリアは、攻撃回数、タックル、ボールリカバリーでトップと、大会を通じて攻撃的でアグレッシブなチームだったと言えそうです。一方で準優勝のイングランドはクリーンシートがトップの5試合(全7試合の内)と、素晴らしい守備力を誇るチームでした。ただ、最後には攻撃的なチームが優勝を飾った大会となりました。



そんな多くの得点が生まれた、攻撃的な大会の中で、印象を残した要素の一つは大幅なポジション変更でした。全51試合の内、32試合でシステムを変えるようなポジションチェンジや選手交代が行われ、それらは試合の流れや結果に大きく影響を与えていたように見えました。

これらはルール変更により選手交代が5人まで行えるようになったこと、近年の戦術進化などが大きく影響したと思われますが、こういったポジション変更が具体的にどう行われたか?は公式資料のTactical Lineupで振り返りやすいです。今回は決勝戦のポジション変更を見てみます。

▼EURO決勝のTactical Lineup
https://www.uefa.com/newsfiles/euro/2020/2024491_tl.pdf

全体としてイタリアがボールを保持し、イングランドはボール非保持からカウンターで得点を狙うという展開でした。互いに1得点し、延長まで戦ってスコアは1-1。最後はPK戦でイタリアが勝利した試合でした。資料の上部では90分終了時点でフィールドにいた選手の平均位置が図示されています。



公式記録のスタメン表記ではイタリアが4-3-3、イングランドは3-4-3というシステムでした。平均位置からは、それぞれ90分を通して左右のバランスに違いがあることなどを見ることができます。

また、15分ごとの平均位置も図示されています。試合の中での時間帯ごとのポジションから、それがどう変化したかを見ることができます。

■0-15分

この試合は、開始2分にイングランドが左サイドの3番ショーのゴールによって先制します。イングランドはここで優位に立ち、イタリアは得点が必要な状況となりました。試合終了までは多くの時間が残されているため、焦るような雰囲気はなかったです。

■15-30分

15-30分の間でスコアは動かず。選手の立ち位置も0-15分と大きく変わらない膠着した状況が続きます。

■30-45分

30-45分も膠着状況は続きます。イタリアは得点が欲しい中で、左サイド13番のエメルソンが高い位置を取るようになるものの、打開策は見出せずという展開でした。一方でイングランドは安定した守備で相手を抑え前半を1-0で終えました。

■45-60分

後半に入り得点の欲しいイタリアが先に動きます。54分に中盤の16番クリスタンテ、前線の11番ベラルディを投入します。

■60-75分

イタリアは選手交代で、前線の立ち位置を変えます。10番のインシーニェ、14番のキエーザ、11番のベラルディが流動的にポジションチェンジを行い、16番のクリスタンテがより前線3人絡むような動きへ変化したように見えました。いずれにしてもこの交代により流れを掴み、セットプレーから19番のボヌッチがゴールを奪い同点に追いつきます。そんな流れの中、イングランドが選手交代を行います。70分に前線の25番サカ、74分に中盤の8番ヘンダーソンを入れます。

■75-90分

イングランドは70分と74分の交代によって立ち位置を大幅に変更します。この変更でイングランドにとっての悪い流れが落ち着いたようにも見えました。イタリアは86分に14番キエーザが負傷したことにより20番のベルナルデスキが投入しましたが、1-1で90分を終えました。

このTactical Lineupから、イングランドが先制し、それに対してイタリアが動いて流れを掴み同点。そこからイングランドがシステムを変えて対応し、同点で90分を終えるという流れが汲み取れます。

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UEFA EURO 2020では様々なポジション変更が行われ、それにより流れを掴み合うような攻防が多く見られました。特に今回はデンマークのポジション変更は多彩でした。決勝トーナメントのウェールズ戦では選手交代を行わずに大幅なポジション変更が行われ、それが見事に機能していました。

Tactical Lineupはそんな攻防を振り返るのに便利な資料となっています。EURO公式ページのMatch Info内の「MATCH PRESS KITS」として資料がありますので、ぜひ機会があれば見てみてはいかがでしょうか。

プロフィール:森田岳 (Gaku Morita) 分析エバンジェリスト

自動車業界出身で社会人サッカーチームの運営/監督/選手経験を持つ。サッカーに関するスタッツ・客観的なデータをこよなく愛し、戦術ボードアプリ「Tactical Board」の開発者でもある。尊敬する指導者はマヌエル・ペジェグリーニ。

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