いま話題の「選手の主体性」を活かす指導法は果たして正しいのか?社会で活躍できる人材育成のための指導者の在り方とは【トークセッションレポート】

2024.01.16 written by SPLYZA Inc.

2023年10月19日(木)に「SPLYZA x UNIVAS x マイナビアスリートキャリア」にて、青山学院大学駅伝部の監督である原晋氏をゲストに招き、「社会で活躍できる人材育成のための指導者の在り方」についてトークセッションを行いました。その内容を一部抜粋してご紹介します。


はじめに

本イベントは、昨年末にSPLYZAとマイナビアスリートキャリアが共同で、スポーツ経験のある現役社会人(10代から60代)1000人を対象に"スポーツ経験と社会での活躍の相関性"というアンケート調査を行いました。その結果をもとに、指導方法と選手との関係性について紐解いていきます。「自主性や主体性を持って取り組んだスポーツ経験」が社会での活躍にどのような影響を与えるのかを、登壇者の皆様にお話しいただきました。


登壇者プロフィール

■青山学院大学駅伝部 監督: 原 晋 氏
中学から陸上を始め、中京大学では3年時に日本インカレ5000mで3位入賞。卒業後は中国電力株式会社の陸上競技部に入部し、引退後は同社の営業部のサラリーマンに。2004年から青山学院大学陸上競技部監督に就任。着実に改革を進め、2015年から2018年大会まで箱根駅伝で4連覇を飾るなど、独自の指導法で陸上界を大きくけん引している。

■一般社団法人大学スポーツ協会 理事/立命館学園副総長・立命館大学副学長: 伊坂 忠夫 氏
1992年立命館大学理工学部助教授就任。その後2010年にスポーツ健康科学部教授、2016年にスポーツ健康科学部長を経て、2019年に立命館学園副総長・立命館大学副学長に就任。主に、スポーツ活動中や日常生活でみられるヒトの動きを力学的・生理学的観点から解析し、競技力向上や日常活動支援へ応用することをテーマに活動。

■株式会社SPLYZA 代表取締役: 土井 寛之
元製造業ソフトウェアエンジニア。社会人になってからウィンドサーフィンに出会い単身オーストラリアへ。帰国後の2011年にSPLYZA創業。30種類以上のスポーツで約900チームに利用されている映像振り返りツール『SPLYZA Teams』などを開発。「スポーツの教育的価値の向上」を目指して会社を経営している。

■株式会社マイナビ アスリートキャリア事業部 事業部長: 木村 雅人 氏
5歳からサッカーをはじめ高校卒業後にJリーグへ。引退後、大学へ入学し教育学を学ぶ。2004年株式会社マイナビ入社。現在はアスリートキャリア事業部 事業部長として、「スポーツを通じた人材育成の可能性」をテーマにアスリートの「人材育成」と「就労支援」に関する事業を執行。


トークセクション①: 指導方法が社会での活躍に与える影響

青山学院大学駅伝部監督の原監督は、まず初めに「社会的にも昨今自主性を重んじる指導、いわゆる『サーバント型指導者』や自主性を重んじる指導が好ましいような風潮ですが、その組織状態とその選手、スポーツに向き合う姿勢の関係性によって『君臨型』で作っていくのかを使い分ける必要がある。」としました。また自身の過去を「理念や行動指針に対してなかなか向き合えない学生が多かった中、自身が君臨型でチームを支配して選手を引っ張ってきた。」と振り返ります。そこで徐々に学生たちに変化が生まれ、より自分で目標管理をして自ら行動を移すように変わってきたと話しました。



立命館学園小中高大院の一環教育も担当される伊坂氏は、「探究型学習型とICT活用やプログラミング教育の導入は生徒の学びと指導方法にも大きく影響を与えた。」と主張します。

探究型であるため、自分自身が選んだ答えがあるかどうか分からない課題に対して生徒はそれにしっかりと取り組む。その時に指導する先生にとってもやったことがない(知らない)というテーマで取り組む。そういう経験は当然のことながら双方型で教えないと探究らしくできない。探究型学習が始まってきたことは大きかったと言います。もう一方で、ICT活用やプログラミング教育が入ってきた影響から「より一層自分で学び取っていく、その学び取ったものを指導者と共にディスカッションできる雰囲気が出てきている。」とも話しました。

また原監督からは"指導者中心型は社会に役立たない"と答えた学生の割合が過半数を占めた件に関して、指導者に問題があると指摘しました。「駅伝に関しては箱根駅伝を1つの教育ツールとして捉えて指導し、そこからだんだん落とし込んで行くことで計画力とか分析力、コミュニケーション能力など社会に役立つ力を身につけることができる。その様な指導を行うことで仕事に役立つ方向に『はい』という比率が多分増えると思う。指導者自身が、ただただ勝てばいいというような思いでやってるようではなかなかこの比率が上がっていかない。」と語りました。


トークセッション②: 選手の主体性や自主性を活かした指導法とは

伊坂氏は「色々な競技のレベルや、学生がやりたいことのレベルもあると思うとしたうえで、大前提なのは安全を確保すること。」と言います。

「安全と安心が担保されるような環境作りや基礎的な体の作り方についてはきちんと教えていく必要がある。その上でどういうことをしたいのか、どこまで自分を高めたいのか、自らの成長をどう楽しめるか、そしてワクワクできるようにしてあげることが指導者の1番のポイント。」と挙げました。

さらに指導者が寄り添いながら、かつ選手自身の目標に対し的確なオプションを示してあげるということ。そのオプションの中で選手自身が選び取れるようにコーディネートするような指導法がこれから求められると語りました。

原監督は指導法の具体的案として自身のチームで実践している"目標管理ミーティング"を取り上げました。(A41枚の用紙に、チームの年度目標と月々のチームの目標、それを受けて個人が今の状態・能力に応じて自分で目標設定をして具体的なやり方を5項目程度数値化する。そのシートを元に5・6人が能力学年関係なく、グループで話し合いを行うという取り組み。) ただ、ここでも現在と以前で違いが生まれていると言います。

以前は毎月の目標に対して上役・監督・コーチ・先輩が"ダメ出し"をするという傾向が非常に強かった。しかし、ここ数年は"フィードフォワード"の傾向になっており、どうやったらできるのかという未来思考を重視している。そうすることで、伝える側も自分自身の力になり、指摘を受ける側もチームと共に一緒に頑張ろうという精神になってくる。フィードバックという手法も取り入れつつ、"フィードフォワード"というキーワードで設定して、前へ向いて進めるように努力をしているとしました。



株式会社SPLYZA代表取締役の土井は「スポーツと社会の共通点」として、”正解がない”ところとしたうえで、それらを解決・改善していくために「課題発見」や「課題解決」、そして「チームで押し進める力」の3つを挙げました。

ITツールや分析力は、「課題発見」や「課題解決」を実行する時のツール(=手段)というところ。正解のない問題の解決策はいきなり正解が出てこないため、無数に考えてたくさんの解決策の中からトライアンドエラーをしていかなければならない。たくさんの気づきや解決策を生み出し、その解決策を早く押し進めるためにはそういったツールっていうのは手段として必要であると話しました。その一方で"主体性"という意味では「1人の力よりみんなで力を合わせた方が、問題の解決により進んでいく。」とも語りました。

株式会社マイナビ アスリートキャリア事業部事業部長木村氏は、4年連続で変わらず「主体性」というキーワードは企業での選考時に重視される力と話します。「自ら考え決断し行動する力であり、様々なイノベーティブなことに繋がっていくことの1つの表れとしてこの選考時に重視する力である『実行力』『柔軟性』『主体性』がまず出てくる。」とのこと。

指導者はそのことを念頭に置いて指導をしていくことが非常に大事だとしました。組織においては「課題発見力」「課題解決力」などの能力が求められているとしたうえで、「最初にまず”主体性”があってそこからこういう能力に繋がる。そして、学校含めて指導する側が意識できてるのかが非常に重要だ」としました。


トークセッション③: 指指導者はどのように社会で求められる能力を選手に提供すればよいか

木村氏はアンケート結果から、過半数の企業が「学業成績を考慮しない方に上回っている」現状を解説。しかし、その「学問を探究する活動」と「スポーツで競技技術を上げていくこと」もイコールであると分析しました。その上で「スポーツでも学問でも、非認知能力のところを育んでいくような指導をしていくことがこの先の日本にとっては非常に重要。指導者は学びの場において様々なシチュエーションを体験させ、幼少期の段階から適切なマネジメントが人を育てるということで必要になる。」と主張しました。



土井は、「先ほどの3つの力の中で、3つの力を全て備えている人はかなり限られている。」としたうえで、「その中で3つとも兼ね備えている人材は、スポーツの中でその分析力を鍛えてきた人たち」「アナリストというポジションや学生コーチで分析をメインでやられてる方々が該当する。」との持論を展開。「役割柄、課題発見や課題解決、そしてコミニケーション能力も必要である事が、"3つの力を育む"ことに繋がっている。」と自身の経験から話しました。

大学スポーツ協会ユニバースのデュアルキャリア部会を担当する伊坂氏は、「指導者自身が学び続け、常にアップデートしながら指導にあたることが極めて重要。」と話します。様々な指導スタイルがある中で、ダイバーシティを尊重し、指導者自身がいアップデートしていく姿勢が求められているとしました。

また原監督は、これからの選手たちはより深く会話をしていくことが求められるとし、「展開力」「本質把握力」「提案力」この3要素を持つことでフレーム作りができてくると話しました。そして、プロセスをある程度言語化・体型化させ、「自分の領域の話題だけでなく、社会課題を解決するためにどうするべきか。」という視点に結びつけるような指導者になるべきだと語りました。

土井は、「スポーツの教育的な価値を、指導の中心に据えていくことが大事だ。」としたうえで、そのスポーツの素晴らしさや楽しさの部分を常に意識し、子供時代からスポーツが好きだということが選手・学生たちのスポーツ人生を支えることに繋がると語りました。

木村氏は、「選手が強制的ではなく主体性を持って『勝ちたい』『成長したい』という姿勢に、真摯に向き合えるような指導者が増えてきてほしい。」と話しました。

最後に伊坂氏は、「指導者は常にアップデートし、学び続けることが基本にある」としながら、「次のステージに旅立つ学生たちが日本のスポーツ界、そして社会全体を明るくしていけるよう、彼らを送り出して欲しい。」と締めくくりました。


まとめ

選手/指導者のどちらかに依存した指導環境ではなく、選手と指導者が常に意見を交わすことで、選手自身の考える機会が増えていきます。そうすることで、「スポーツで培った能力が社会で活きている」と感じる人が増え、"社会人としての基礎力"および"社会を生き抜く力の向上"につながるという「選手の主体性の重要性」や、「人材育成のための指導者の在り方」について、改めて考え直す場となりました。

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【UNIVASについて】
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概要: 一般社団法人大学スポーツ協会(略称UNIVAS)は、文武両道の奨励のほか、大学スポーツ界全体の統括と振興を目的に2019年3月に発足。学修環境の充実、安全・安心して競技に取り組める環境整備と共に、大学スポーツ全体の価値向上にむけて活動しています。

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概要: 『マイナビアスリートキャリア』はアスリート向けキャリア支援サービスで、2018年12月にスタートしました。プロ・アマ・学生問わず全てのアスリートのキャリア育成を目的とした講座『アスリートキャリアスクール』を企画・運営し、スポーツとビジネスどちらでも活躍が出来るように、競技力およびビジネススキルの向上をサポートしています。また就労支援としてアスリートと企業のマッチングをする職業紹介サービスも提供しています。 さらに、UNIVASとトップパートナー契約を締結し、運動部学生のキャリア形成をサポート。社会から求められる「卓越性を有する人材」の育成事業や就職活動支援を行っています。