アメリカにおける大学スポーツの現状

2023.06.22 written by Yohei Yamamoto

はじめに

4月12日、「アメリカ女子大学バスケ、過去最高視聴率を記録」のニュースを目にしました。日本全体を見渡すと、アマチュアスポーツは、高校野球の甲子園大会や大学箱根駅伝を筆頭に盛り上がりを見せますが、アメリカにおける大学バスケ、ひいては大学スポーツに何が起こっているのか、注目します。

この記事では、アメリカにおける大学スポーツの現状を調査し、そこから見えてくるスポーツの教育的価値の大きさについて考えます。


1.アメリカにおける大学スポーツ



アメリカにおける大学スポーツの特徴を3つの観点から表にしました。



出所:スポーツ庁「米国・日本・英国における大学スポーツの現状比較、大学スポーツの振興について」


アメリカには、大学スポーツを統括する中央組織、NCAA(全米体育協会)が設置されており、1200校が加盟、競技規則の管理から運営支援なども行っています。次に、その経済規模の大きさも注目されます。NCAAの収入は約1000億円(2014)、アメリカ大学スポーツ全体では8000億円(2010)に上り、注目度の大きさが見受けられます。また、大学内での位置付けも日本には見られないものがあります。Athletic Departmentと言われる、基本的に大学とは別会計の独立採算組織が存在し、大学のスポーツ施設の建設や維持管理を行っています。

つまり、アメリカにおける大学スポーツでは、大学・競技全体の統括組織であるNCAAの機能・役割と、各大学内のスポーツ局(AD)による運営、という大学側の取り組みとが両輪となることで、大学スポーツ全体の発展を支えてきたと考えられます。さらに、上記の三つの観点から詳しく見ていきましょう。



2.中央組織NCAA



まず、アメリカには大学スポーツにおいて「NCAA(National college athletic association)」という中央組織が大学横断的かつ競技横断的に統括しています。その理念として「ACADEMICS(学業)」、「WELL-BEING(安全・健康)」、「FAIRNESS(公平性)」1)の3つを掲げ、大学スポーツ全体の発展を支えています。

この規模はとてつもなく大きく、2018年時点で1123校の大学が加盟しています。責任の所在を明らかにし、経済的支援や環境の整備が積極的に行われ、大学側のガバナンスが効いていると言えます。大学間の連絡調整、管理など、さまざまな運営支援などを行うことも大きな特徴となっています。大学スポーツを「支える」立場として、大学同士が協調・連携するためのプラットフォームとしての役割を担っています。


3.驚きの経済規模



次に経済規模の視点で見てみます。



出所:トランスインサイト(注:1ドル=100円、1ユーロ=130円で計算。NCAAはカンファレンス、大学を含む全ての収入の合計)


アメリカの大学スポーツ市場はその莫大な放映権やチケット収入などから、日本円で8000億円に上ります。日本のアマチュアスポーツ全体で1000億円(2020年)2)であり、日本で最も収入を持つスポーツリーグ、NPBの1200億円と比較しても、遥かに凌ぐ値です。アメリカ4大競技※(NFL,MLB,NBA,NHL)合計の3割を超える値は、アマチュアスポーツへの期待の表れであると言えるでしょう。

多くの収入は放映権ですが、体育局にスポーツビジネスの専門家を雇用し、観戦施設やブランドの管理、入場料やスポンサーなどの収入を増やし、スポーツ環境の整備を促進していることも要因となっています。スポーツを「見る」視点から経済規模の大きさが見えます。


※アメリカ4大競技
・NFL ナショナル・フットボール・リーグ
・MLB メジャー・リーグ・ベースボール
・NBA ナショナル・バスケット・アソシエーション
・NHL ナショナル・ホッケー・リーグ


4.学校内での位置付け



さらに、学外の取り組みだけでなく学内には「Athletic Department」と呼ばれる大学体育局が設けられており、運動部を統括する組織が存在しています。財務面で、各部活への配当や、NCAA、米国教育省への報告義務が課せられており、大学の主体的関与のもとで運営が行われています。

各競技のコーチ採用権利もAD局にあり、資金面、人事面において大学側にあることが特徴です。日本では、大学として指導者すべてと契約している現状は無く、大きな違いであると言えます。大学側も大学スポーツを「支える」一役を担っているのです。



出所:スポーツ・クラブ統括組織と学修支援・キャリア支援に関する調査(公益社団法人全国大学体育連合)



5.最後に -スポーツの教育的価値-



以上のように、アメリカにおける大学スポーツの現状を「大学外部・内部の構造、経済的視点」から見てきました。どの特徴にも通ずる部分として、関与する人が大学スポーツに対して「広く・深く」関わるところであると言えます。これは、スポーツへの期待感やスポーツが持つ価値の大きさを社会として共通に認識しているからではないでしょうか。大学という教育機関が、育成年代に主体的に関与するアメリカは、スポーツを教育の一環として捉えていると感じます。

日本でも、UNIVASの設置や、筑波大学を筆頭にしたADの設置も見受けられ、スポーツ・大学部活動への捉え方に変化が見られます。実際にスポーツを「する人」、大学スポーツを内部・外部から「支える人」、そのスポーツを「見る人」の3つの循環によって多くの人が関わりを持つことで、発展に繋がります。スポーツとは、いろいろな人と交流し、自分の考えや相手の考えをぶつけ合い、未知なる他者との出会いや衝動を繰り返す事で、他者理解を生み出し、そして何より自分自身を理解していくことに繋がると思います。

我々SPLYZAは「スポーツは考える力を育む」その言葉通り、スポーツの教育的価値の大きさを信じ、関わり続けます。


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■引用文献
1)NCAA Mission and Priorities
Mission and Priorities - NCAA.org

2)スポーツ未来開拓会議中間報告~スポーツ産業ビジョンの策定に向けて~ P9
https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/shingi/003_index/toushin/__icsFiles/afieldfile/2016/06/14/1372342_1.pdf

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■参考文献
スポーツが大学を変える ・大学がスポーツを変える ~日本版NCAA創設への期待とその取り組むべき優先課題~ スポーツ庁
資料7  スポーツ庁 講演資料 (mext.go.jp)

大学部活動の安全・安心に関する現状 
資料4 大学部活動の安全・安心に関する現状 (mext.go.jp)

スポーツ産学連携=日本版NCAA ~スポーツマーケティングの立場から見た大学スポーツの重要性 電通
https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/shingi/005_index/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2016/05/25/1370914_05_1.pdf

大学スポーツの振興ついて 
https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/shingi/001_index/bunkabukai/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2016/10/25/1378466_007_1.pdf

スポーツ未来開拓会議中間報告~スポーツ産業ビジョンの策定に向けて~ 
https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/shingi/003_index/toushin/__icsFiles/afieldfile/2016/06/14/1372342_1.pdf

プロフィール:山本陽平 (Yohei Yamamoto)

2000年生まれ神戸市出身。現在は奈良教育大学在籍中。高校からラグビーをはじめ、現在はプレイヤー・コーチ・アナリスト・ラグビー普及活動と多岐に渡る。ラグビーの素晴らしさをもっと広めたいと考えながら日々活動中。。