【進学校での分析活用事例】東大寺学園高校サッカー部・中留学先生インタビュー

2020.03.27 written by SPLYZA Inc.

関西でも屈指の進学校、奈良県奈良市にある東大寺学園高校。そのサッカー部で指揮をとる中留先生に、部活動内でのサッカーに対する数学的なアプローチや、それに関わる分析手法についてお話いただきました。

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ー早速ですが、東大寺学園高校のサッカー部ではゲームモデルの採用や、フィールド上でのタスクマップを用いたスプレッドシートでの分析を実践しているとお伺いしました。

中留先生
はい。粉河高校の脇先生が書かれた「プレー経験ゼロでもできる実践的ゲームモデルの作り方」と、元サッカー日本代表監督でもある岡田武史さんの「岡田メソッド」を熟読しまして、それらをベースに東大寺学園高校サッカー部のリファレンスを作成し、生徒達に配布しました。ゲームモデルに準じたチームの目標、プレースタイルやプレー原則、あとは目標達成のためのロードマップ等が明記されていて、全部で30ページほどあります。

↓東大寺学園高校サッカー部・ゲームモデルなどが明記されているリファレンス


中留先生
生徒達の能力や、リファレンスで定義した「目指すべきサッカーのスタイル」というものをベースにスプレッドシートでタスクマップを作成して、自チームのゲーム分析を行うようにしています。映像分析を始めた当初はプレーをどう評価していいのか不明確であったり、どこからどこまでのプレーに対して評価すべきなのかがはっきりせず迷っているところもありましたが、この手法を1月頃から始めて以降、評価軸が鮮明になったのか、生徒達の反応も良いですよ。

ー実際に運用してみてどうですか?

中留先生
運用を始めて、タスクマップで定義した「ここでビルドアップするぞ!」というエリアで全くボールを保持できない…という問題点が早速浮き彫りになりました。

↓東大寺学園高校サッカー部、守備におけるフィールド上でのタスクマップ


中留先生
うちの部はとびきりアスリート能力の高い生徒が揃っている訳ではないので、例えば自陣ゴール前からの組み立てを始めようとすると、ボランチまではなんとか出口を見つけられるんですが、そこから先で相手のプレッシングに耐えられなくなり、ミスを誘発することがハッキリしました。

もちろん、技術的な部分がいきなり向上するわけではないので、どうブレイクスルーしようか?という話になったときにたまたま東京大学運動会ア式蹴球部テクニカル班の記事を読んだのですが、そこで取り上げられていた「1つのパスで相手を何人置き去りにできたかの指標」であるパッキングレートを採用してみてはどうかなと思い、すぐに取り入れました。

ー高校の部活動でパッキングレートを導入しているというのは非常に興味深いです。具体的にはどのように活用するのでしょうか。

中留先生
相手から圧をかけられて苦し紛れに一か八かのロングパスを蹴っても、その多くは相手にセカンドボールを拾われてしまい、易々と攻撃の局面を明け渡してしまいます。それなら、いっそのこと積極的に前方に縦パスを送る前提で、相手からこのエリアでこういうプレスを受けたら、前方で受け手がスペースに動いて、有効打となるパスを出せるようになるか?を考察できれば、少しは問題解決に繋げることができるのではないかと考えました。

↓東大寺学園高校サッカー部でのパッキングレートを用いた分析


中留先生
映像分析としても「このパスは受け手がゴールに背を向けてしまうのでダメ」「このパスは受け手が前方を向けて前進できるのでOK!」という風に、私を介さずとも生徒同士でフィードバックできるのは大きいですね。また彼らはこういった、ロジカルで数学的なアプローチが大好きなので「こういうパスなら相手に刺さる!」とメッセージを映像内に書き込むことで映像付きで全員でイメージを共有できますから、早速練習や試合で実践していました。

ー素晴らしい分析環境ですね!プロのサッカークラブ専属の分析官になりたいと興味を持つ生徒もいらっしゃるのではないでしょうか?

中留先生
いろいろな視点を持って、自分の可能性を広げる一つのきっかけになってくれればいいなと思っています。今は世界中のサッカーの試合映像に手軽にアクセスできる時代ですから、やはり映像分析に関しては興味を持っていたり、得意とする生徒が多いです。現在はプロ経験がなくてもトップレベルの監督やコーチ業に就いている方もいらっしゃるので、もし本格的に目指したいという生徒が出てくれば応援したいですね。

ーそもそも、SPLYZA Teamsを導入したのはどういった経緯があったのでしょうか。

中留先生
もともと試合映像の撮影は行っていたのですが、あまり活用できていなかったのもあり、何か効率よく運用する方法はないかとツールを探していたのと、映像自体を個人の振り返りに使えるという目的も合致したのでSPLYZA Teamsを導入することにしました。



ーありがとうございます。SPLYZA Teams導入後、生徒達に変化はありましたか?

中留先生
質問の趣旨から少し逸れるかもしれませんが、生徒達がビデオを撮影する際にかなり気を遣ってくれるようになりました。タグ付けしやすいように、試合会場で高い位置から撮影できる場所を探したりですね。撮影者自身もタグ付けをするので、自分が映像を編集するのが大変になるのは避けたいでしょうから。

ー生徒達のタグ付けの様子はいかがでしょう?楽しんでやられていますか?

中留先生
もともとこういった理詰めでやることに楽しみを覚えたり、そもそも分析自体が好きな生徒が多いので、こちらから最低限の説明をすれば、彼らの中で工夫しながらやってくれています。

↓東大寺学園サッカー部でのSPLYZA Teamsへのタグ付けの様子


ー現在は新型コロナウイルスの感染症拡大防止対策に伴う部活動の自粛等もあり、なかなか思うようにいかない状況かと思います。

中留先生
せっかくのこの機会なので、うまく時間を活用しようという試みは考えております。我々の学校が中高一貫ということもあり、中学部のサッカー部顧問と相談して、中学部と高校でそれぞれSPLYZA Teamsを使って宿題を出すというのはどうか?ということで話は進めています。生徒達の反応も楽しみです。

ー最後に、中留先生の考える東大寺学園高校サッカー部の信条や生徒達へのメッセージなどあればお聞かせください。

中留先生
サッカーは「プレーヤーとして技術的に優れていないと楽しめない」というものではありません。シンプルな技術だけでも良いですし、プレーせずともピッチ外で観戦したり分析したりすることを通して起きること、起こそうとすることの「準備」をチームで共有することで、サッカーという「ゲーム」を充分楽しめるようになるよ。ということは生徒にいつも伝えています。



中留先生
サッカーというスポーツは夢中になって真剣にやればやる程その奥深さが見え、プレーの一つ一つ、考え方の一つ一つ、人との関わりあいの一つ一つが自分自身の生き方と通じているものがあることに気づきます。その「気づき」と生活の中での「実践」が一致した時に人としても、プレーヤーとしても成長があるのだと信じています。

なので、生徒達には高校でお腹いっぱいになってやめてしまうのではなく、卒業してもサッカーを好きで続けていってくれることを願っています。だから、「大学でもサッカー部に入りました!」という報告をOBから貰うと非常に嬉しいですね。彼らには生涯、サッカーを通じていろんなことを学んでいって欲しいと強く思っています。