
パス全てのタグを付けた結果から見えるチーム戦術(2018W杯決勝:フランスvsクロアチア)
2018.12.10 written by Gaku Morita(SPLYZA Inc.)
今回はSPLYZATeamsを使い、パス全部にタグ付けしたデータから見えてくるチーム戦術について書いていきます。2018年W杯決勝のフランス vs
クロアチア(4-2でフランス勝利)の試合で、パスをしたチームとプレイヤー、パスの種類、方向、場所、そしてそのパスが成功したかどうかについてタグをつけています。
どんな試合だったかはこちらのハイライト動画をご覧ください。あの日の感動をもう一度。
https://www.youtube.com/watch?v=GrsEAvRerTg
タグの集計から得られる、それぞれの比率を使っていきます。まずはパスのチーム比率からです。
パスのチーム比率
パス総数893の内、フランスが4割、クロアチアが6割くらいという比率。ボールを多く扱ってたのはクロアチア。FIFA公式スタッツのボールポゼッション率と近い数字が得られました。
フランスとクロアチアのパス方向比率
フランスはクロアチアと比較して縦パス比率が高い。フランスは縦に速く前進しており、クロアチアは横パスを使いながら前進していたことが分かります。
フランスとクロアチアのパスエリア比率
フランスはミドルサードとディフェンシブサード、クロアチアはミドルサードを中心にパスが多く、フランスよりもクロアチアの方が前でパスを回していたことが分かります。
試合を通じて、クロアチアがボールポゼッションして攻め込もうとするのに対して、フランスはうまく守りながらカウンターを狙うという構図でした。その構図はパスデータにも表れています。
フランスのパスのプレーヤー比率
最もパスに関わっていたのはポグバ、その次にグリーズマン。この2人を中心に縦に速く前進。パス本数の少ないエムバペはパスの受け手。
2番目にパスに関わっているのが、グリーズマンというのは意外でした。前線に位置しながらも、中盤に降りてきてリンクマンとしても機能していたという事を示しています。また、パヴァール、ヴァランのパスが多いことから、右後方から前線へのボール供給が多かったと想像できます。パスが少ないカンテとエムバペに関して、カンテはパスでない部分で貢献し、エムバペはフィニッシャーとしての役割を担っていたことが影響していると思われます。
クロアチアのパスのプレーヤー比率
最もパスに関与しているのはブロゾビッチ、その次がモドリッチ。中盤の3人がパスに関わり、横パス(特に右)を使いながら前進。マンジュキッチ、レビッチはパスの受け手。
ブロゾビッチがロブレン、ヴィダからパスを受けて左右に振り分けつつも、攻撃は中盤の右に位置するモドリッチを経由する傾向が見受けられます。ヴルサリコのパス本数から、右サイドで攻撃を仕掛けていたことも想像できます。レビッチは3トップの右としてプレーしていましたが、サイドからパスというよりも、中央でパスを受けてシュートを狙っていたとも読み取れます。
フランスの戦術
ポグバを中心に縦に速くゴールを狙う戦術。ポグバ、グリーズマンがボールに絡みながら、自陣からでも縦パスでゴール前にボールを運ぶような狙い。
パスに最も関与したポグバの6割が前への縦パスで、3割が左右へ横パスでした。ボールを受けたら左右に振るより、まずは縦に速くボールを運ぶというポグバの意識が表れています。
クロアチアの戦術
中盤の3人を中心に横パスを使いながら、ゴールを狙う戦術。DFからパスをつなぎながらビルドアップし、ブロゾビッチからモドリッチがいる右側を経由し、ゴール前にボールを運ぶような狙い。
パスに最も関与したブロゾビッチは、3.5割が前への縦パスで、6割が左右への横パスでした。ポグバとは違い、ブロゾビッチはパスを受けたら左右に振る意識を持ってプレーしていたと言えそうです。
総評
クロアチアがボールを扱いながら攻撃を仕掛けていく中で、フランスがしっかり守って縦に速くカウンターという構図がデータに表れており、その中でキープレイヤーにボールが集まっていることも分かります。試合で生まれたフランスの4得点は、セットプレーx2、カウンターx1、自陣からの仕掛けx1で、狙いのカウンターから1得点していることから、戦術が効果を発揮したと言えそうです。一方で、クロアチアの2得点は、セットプレーx1、相手GK(ロリス)のミスx1と、得点できてはいるものの、チーム戦術が効果を発揮していたかは疑問が残ります。
この大会の過去の試合でクロアチアは、ビルドアップしたところから、フィジカルのあるマンジュキッチを起点にして、ペリシッチやレビッチが絡むような形で得点して勝ち上がってきました。決勝では、フランスにそこをうまく抑えられてしまった印象です。
まとめ
パスにタグを付ける事で、試合を観た人なら読み取れるチーム戦術を、データから読み取り、ボールが集まるキーマンも見えるようになります。これから試合する相手チームのスカウティングとして、パス全部にタグをつけてみると、そのチームの戦術や、重要なプレーヤーが数字から見えるようになるかもしれません。
プロフィール:森田岳 (Gaku Morita) 分析エバンジェリスト
自動車業界出身で社会人サッカーチームの運営/監督/選手経験を持つ。サッカーに関するスタッツ・客観的なデータをこよなく愛し、戦術ボードアプリ「Tactical
Board」の開発者でもある。尊敬する指導者はマヌエル・ペジェグリーニ。
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