【ウインターカップ2018】第71回全国高等学校バスケットボール選手権大会マッチレポート:準決勝 帝京長岡 vs 中部大第一

2019.04.10 written by SPLYZAの中の人

ウインターカップ2018の準決勝2試合と決勝、3位決定戦の計4試合の分析をしました。今回は2018年12月28日(金)に行われたウインターカップ準決勝のマッチレポートです。

171cmながら得点とリバウンドで平均ダブルダブルの神田選手(#8)に、今大会4試合で平均32点/22.8リバウンドでモンスター級のスタッツを残すカンディオウラ選手(#14)、コートのどこからでも得点でき、ターンオーバーの少ない品川選手(#12)と、バランスの良い帝京長岡高校。対する中部大第一は、インターハイでは世代別代表にキャプテン中村選手(#4)が招集されたものの準優勝。ベスト4の4チームで最も平均身長も高い。

エースが合流し、インターハイでは手にできなかった「日本一」を目指す中部大第一か?それとも準々決勝でトリプルダブルの神田選手(#8)が流れそのままに勝利を掴むのか?とても見応えのある一戦となりました。

※この記事はSPLYZA Teamsのタグ付け機能から割り出されたデータをもとに構成されています。


▼両チームの重要スタッツ比較(4factor/ポゼッション/PPP/シュート成功率)


▼両チームの得点推移とベーシックスタッツ

ジワジワと離れていく展開となりました。帝京長岡も頑張りましたが、1Q 3:25の同点以降一度もリードチェンジはありませんでした。 ベーシックスタッツだけ見ると、どっちが勝ったのかな?となります。中部大第一の方がTOも多く、OFFリバウンドも負けています。しかし、これが数字の単純比較の怖さです。実際に帝京長岡はFTも含めシュートを54本外していますが、中部大第一は37本しか外していません。リバウンド機会に差がありました。レーダーチャートのリバウンド%を見ると、中部大第一がどちらのリバウンドも上回っていたことが分かります。中部大第一の方がPPPが高く、eFG%が高いことから、確率よくシュートを決め、オフェンス効率がよかったことが分かります。


▼両チーム登録メンバーとランキング(★:スターティングメンバー)

留学生2人を擁した両チーム。平均身長では7.3cm中部大第一が上回りました。またスタメンの平均身長だけで比較すると、帝京長岡が181.2cm、中部大第一が平均188.2cmです。この身長差は大きい。ちなみに、W杯アジア予選最終戦(vsカタール)のメンバー平均身長は193.3cmでした。また中部大第一の井戸選手(#10)が3Pを3本決めて100%も見逃せません。しかも、オープンショットではなく、大事な場面でタフな3Pを沈めていました。


▼両チームのエリア毎のシュートの確率

全体的に赤みがあり、確率が高いことが分かる中部大第一。2P成功数で8本差16点分の差が生まれてしまったことは影響大です。

▼両チームのエリア毎のシュート試投数の比率

前回の桜丘vs福岡第一のレポートを見て、シュートを打った割合も見てみたい、とのリクエストがあり、新たに出してみました。エリア毎のシュート数をチーム全体のシュート試投数で割っています。帝京長岡の方が3Pエリアの赤みがある。〈SHOT%〉で分かる通り確率も悪い。

以上は、SPLYZA Teamsを使用し、両チームの全ての攻撃における[局面開始形式][局面終了][シューター][シュートエリア][シュート詳細][アシスト情報][リバウンド情報]をタグ付けし、算出したスタッツです。

また、この記事におけるポゼッションの算出方法は、OFFリバウンド獲得で得たオフェンスも1回と見なしています。(計算式=フィールドゴール試投数+フリースロー 試投数*0.44+TO)

バスケットボールにおいて重要とされている【4Factors】という4指標があります。まだ日本ではあまりメジャーではありません。ぜひこちらをご参考ください。
→「NBAでお馴染みのFour FactorsをBリーグデータで算出し統計をとって5段階にランク付けしてみた

●スタッツ用語一覧
2P:2ポイントシュート 3P:3ポイントシュート FT:フリースロー REB:リバウンド合計 DRB:ディフェンスリバウンド ORB:オフェンスリバウンド BLK:ブロックショット AST:アシスト Potential AST:シュートが成功したらアシストになっていたパス TO:ターンオーバー Live TO:プレーが中断しないターンオーバー POSS.:攻撃回数 PPP:1回の攻撃あたりの得点(Points Per Possession) eFG%:3Pの価値を2Pの1.5倍として算出したシュートの効率性(Effective Field Goal) TO%:1回の攻撃でTOする確率 DRB%:ディフェンスリバウンド獲得率 ORB%:オフェンスリバウンド獲得率 TRB%:合計リバウンド獲得率 FTR:フリースロー 獲得率


マッチレビュー
お互いシュートが決まらない立ち上がりから、徐々に中部大第一がリードを広げていく、派手さはないがアツい見応えのある試合となりました。

〈前半〉~我慢が続く展開もディフェンスで流れを呼び込んだ帝京長岡~

立ち上がり互いにシュートが中々決まらない展開となりました。中部大第一は帝京長岡のオフェンスに対してボールマンプレッシャーもあまりかけず、ディナイもしませんでした。平均32点のカンディオウラ選手(#14)のインサイドとドライブを警戒し、一見ゾーンDEFにも見えるくらい、インサイドに寄りコンパクトに守っていました。1Qは互いにシュートが入らない分OFFリバウンドで我慢する展開。中部大第一の中村選手(#4)がなんどもゴールにアタックし、少しずつ得点を重ねていきました。

2Qになると、中部大第一が固いディフェンスで徐々に流れを掴み始め、シュートも入るようになりました。中村選手(#4)はポストアップ、ドライブ、バックドアと2Pを決めていきます。中部大第一がPnRでDEFがスライドしたのに対して3Pを決め点差を広げようとすると、帝京長岡も品川選手(#12)が3Pを決め、食い下がります。しかし、帝京長岡はサイズがあってコンパクトに守る中部大第一のDEFに苦戦し、安定してシュートを決めることができません。対する中部大第一は2Qはシュートを確率よく決め、少しずつ差が広げました。この確率の差は、シュートエリアによるものです。中部大第一の方がゴール近くで打っています。ラストプレーでは、中部大第一が井戸選手(#10)とクリバリ選手(#14)のPnRからダンクを決め、最高の形で前半を締めました。




〈後半〉~安定したDEFと確率の高いシュートで点差を広げ続けた~

帝京長岡はファーストプレーで小澤選手(#17)がPnRから緩急つけてドライブしイージーレイアップを決めますが、中部大第一はエース中村選手(#4)がすかさずシンプルなドライブからランニングジャンパーで決め返します。前半とは打って変わって互いにシュートを落とさない立ち上がりでした。3Qは帝京長岡がエネルギッシュなDEFでブロックやスティールを決め、速攻に繋げていきます。さらにGood DEFは続き、良いDEFリバウンドから速攻の展開を作ります。次を決めれば、流れをぐっと引き寄せられそう、安易なタッチダウンパス。このパスは通ったものの、レシーブ後DEFに囲まれ、無理に打ったショットは外れてしまいます。このプレーで流れに嫌われた感がありました。実際ここで4点差にできそうだったものの、この後2連続で得点され、10点差に戻されてしまいました。このあと、帝京長岡がショットクロックギリギリまで守るものの、#10井戸がタフな3Pを決めるなど中部大第一は波に乗り、帝京長岡を引き離していきます。

帝京長岡の品川選手(#12)が苦しい中で3Pを決め、次に中村選手(#4)がPnRから3Pを決め返し、帝京長岡の小澤選手(#17)がさらに3Pを入れ返す、といった激しい攻防が繰り広げられました。しかし、このあと帝京長岡に悲劇が訪れます。その次のOFFで3Pを打った品川選手(#12)が3Pを打った際に相手の足の上に着地し、捻挫。プレー続行できなくなりました。帝京長岡は大事な得点源を失うこととなりました。

そのままの流れで3Qを終え、4Qに入りました。帝京長岡はOFFのテンポをあげます。中部大第一の判断が緩み、帝京長岡は先頭走るカンディオウラ選手(#1)にタッチダウンパスを決め得点するなど、良い形で攻撃も見られました。しかしシュートを続けて決めきれず、TOもあり、中々点差を詰められません。最終的には流れが大きく変わることはなく、58-79、20点差をつけて、中部大第一が決勝への切符を勝ち取りました。


~中部大第一のセットオフェンスをちょっぴり紹介~
この試合に勝った中部大第一ですが、中村選手(#4)が29点もとりました。放ったシュート25本のうち、21本が2P。2Pを9本決め、ファウルももらいFTは8/8(100%)でした。得点パターンも豊富ですが、その中でゴール下でのイージーバスケットを作っていたのがこの「フレックス」でした。UCLAカットの次くらいに有名でかつ少しレトロなセットオフェンスです。採用するチームは減るものの決してなくならないのが「フレックス」です。


1. ベースライン付近に4人並びます。得点を取らせたい中村選手(#4)と同じサイドのローポストにセンターがポジションをとります。まずガードが運んできたら、センターと同じサイドの2ガードポジションまで持ってきます。センターのクリバリ選手(#15)の逆サイドの小澤選手(#7)が3Pラインまで上がり、パスを受けます。そのパスとほぼ同時に、センターのクリバリ選手(#15)は中村選手(#4)にスクリーンをかけます。このとき、クリバリ選手(#15)は中村選手(#4)にマッチアップするDEFの位置に応じてスクリーンの位置と角度決めます。この場合は、DEFが中村選手より高いため、下からかけます。


2. 中村選手(#4)はスクリーンの位置、角度、DEFの対応を見て、カットします。この場合は、ベースライン沿いをカットし、DEFがスイッチせずスライドしたため、ゴール下でフリーになり、得点しました。


※もしここで、DEFがスイッチしてきたとしたら、中村選手(#4)は逆サイドまで切れます。それによって、クリバリ選手(#15)がプレーするスペースを作流ことができます。フレックスはこの対応力があります。


〈まとめ〉
中部大第一のサイズがあり、コンパクトなDEFが光った試合となりました。常にリードを保ち、流れがきたときに引き離せたのはこのDEFがベースにあったからだと思います。OFF面では、エースの中村選手(#4)の29得点に続き、矢澤選手(#6)が2本、井戸選手(#10)が3本とノーミスで3Pを決めたことも大きかったです。またチームとしてPnRの回数が多く、かなり練習してきていることも判断の良さから伺えました。

帝京長岡は、神田選手(#8)がどうしてもゴールまで運んでも決めきれず、プルアップでロング2Pを打つ回数も増え、得点が伸びませんでした。カンディオウラ選手(#14)も平均32点を考えると19得点は抑えられた感があります。マッチアップする相手が2人も200cm超えで、カバーにくるプレイヤーもサイズがあり、準々決勝までのようにはいきませんでした。4Q見られたオープンなコーナー3を出だしから作り出していれば、中部大第一のDEFのクローズアウトも増え、少し違った展開になったかな、と個人的には感じました。

この試合は何よりも、両チームともDEF強度が高く、我慢強く、かつアグレッシブにプレーし続けた素晴らしいゲームでした。準決勝は2試合とも好ゲームで、決勝を楽しみにさせてくれました。


プロフィール:SPLYZAの中の人

SPLYZA広報担当。日々SNSの更新やメールマガジンの作成、お客様のカスタマーサポートなどを行なっています。元バスケ指導者(AC)&アナリストの経験を活かし、コンスタントにバスケットボールの魅力を発信し競技人口を増やしていくことを目標に頑張り中。何かお困りの事が御座いましたらいつでもご相談&お問い合わせください。

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