【ウインターカップ2018】第71回全国高等学校バスケットボール選手権大会マッチレポート:3位決定戦 桜丘 vs 帝京長岡

2019.05.24 written by SPLYZAの中の人

昨年度2018年12月29日(土)に行われたウインターカップの3位決定戦のマッチレポートです。すでに大学バスケで主力として活躍するプレイヤーもいますね!インターハイも県予選に差し掛かり、すでに熱い戦いが繰り広げられています。ここで1度昨年のゲームを振り返り、今年のインターハイにつなげていきたいと思います。

桜丘高校は、今大会平均得点38.6点と大活躍する富永選手(#7)がオフェンスでも雰囲気でもチームを牽引。福岡第一との準決勝では前半だけで31点を叩き出す。福岡第一との準決勝では最終的には力の差を見せつけられました。

対する帝京長岡は、準々決勝までの4試合で平均32点/22.8リバウンドでモンスター級の活躍を見せるカンディオウラ選手(#14)と、171cmながら得点とリバウンドでハッスルする神田選手(#8)がチームを支える。互いに準決勝で涙を飲んだチーム同士の対決。連戦で疲労もピーク、精神的にも体力的にもタフさが問われる3位決定戦を、データともに振り返っていきます。

※この記事はSPLYZA Teamsのタグ付け機能から割り出されたデータをもとに構成されています。


▼両チームの重要スタッツ比較(4factor/ポゼッション/PPP/シュート成功率)


▼両チームの得点推移とベーシックスタッツ

帝京長岡はOFFリバウンドも多く獲得し、TOも少ない。もちろんポゼッションも勝っている。しかし、桜丘が11点リードで勝利しました。ここから考えられることは、帝京長岡の敗因はシュートです。これは準決勝(vs中部大第一)でも同じような数字が見られました。ポテンシャルアシストが多いこと、”アシスト性のパスが多い”と考えられます。しかし、このように他のスタッツと絡めると、シュートを決めきれていないことの裏付けともなります。反対に桜丘は、シュート関連のスタッツ全てで上回り、オフェンス効率で帝京長岡を上回りました。これは、福岡第一との準決勝の前半でも見られた桜丘の傾向です。


▼両チーム登録メンバーとランキング(★:スターティングメンバー)

平均身長はほぼ同じです。スタメンの平均身長は桜丘は184.6cm、帝京長岡が181.2cmと3cm上回る。準決勝で足首を負傷した帝京長岡のキープレーヤー品川選手(#12)に変わって、小澤選手(#17)がスタートで出場しました。また、何より目につくのは、富永選手(#7)の46点。これで全試合36点オーバーです。また帝京長岡はカンディオウラ選手(#14)が全て1位でした。品川選手(#12)不在が響いているかもしれません。


▼両チームのエリア毎のシュートの確率

カラーリングを変更してみました。より赤みが増すほど成功率が高く塗りつぶされています。ぱっと見でわかりますが、全体的に桜丘の方がシュートが入っています。富永選手(#7)の派手な3Pに目がいきがちですが、2Pの確率に差が出ています。

▼両チームのエリア毎のシュート試投数の比率

こちらもカラーリング変更です。より青みが増すほど、そのエリアでシュートを打っていることが分かります。帝京長岡の方が期待値があまり高くない「ロング2P」を打っていることが分かります。

以上は、SPLYZA Teamsを使用し、両チームの全ての攻撃における[局面開始形式][局面終了][シューター][シュートエリア][シュート詳細][アシスト情報][リバウンド情報]をタグ付けし、算出したスタッツです。

バスケットボールにおいて重要とされている【4Factors】という4指標があります。まだ日本ではあまりメジャーではありません。ぜひこちらをご参考ください。
→「NBAでお馴染みのFour FactorsをBリーグデータで算出し統計をとって5段階にランク付けしてみた

また、この記事におけるポゼッションの算出方法は、OFFリバウンド獲得で得たオフェンスも1回と見なしています。(計算式=フィールドゴール試投数+フリースロー 試投数*0.44+TO)


●スタッツ用語一覧
2P:2ポイントシュート 3P:3ポイントシュート FT:フリースロー REB:リバウンド合計 DRB:ディフェンスリバウンド ORB:オフェンスリバウンド BLK:ブロックショット AST:アシスト Potential AST:シュートが成功したらアシストになっていたパス TO:ターンオーバー Live TO:プレーが中断しないターンオーバー POSS.:攻撃回数 PPP:1回の攻撃あたりの得点(Points Per Possession) eFG%:3Pの価値を2Pの1.5倍として算出したシュートの効率性(Effective Field Goal) TO%:1回の攻撃でTOする確率 DRB%:ディフェンスリバウンド獲得率 ORB%:オフェンスリバウンド獲得率 TRB%:合計リバウンド獲得率 FTR:フリースロー 獲得率


マッチレビュー
両チームとも、大会通しての疲労もあり、昨日の激闘の疲れも残っているようでした。しかし、それでもディフェンスやリバウンドを頑張っていて、両チームとも応援したくなるゲームでした。数字上ではシュート力の差が勝敗を分けたと考えられるこの試合。ここからは映像も絡めて、深く振り返っていきます。

〈前半〉~富永劇場再び!?~

立ち上がり重い展開となりました。序盤は両チームとも集中し切れていないようでした。シュートも互いに30%しか決められていません。桜丘は富永選手(#7)の3Pが入らず。福岡第一戦のようにフェイスガードされ、満足にアタックできず、チームにもリズムが出ません。その間帝京長岡は素早いトランジションで、桜丘のDEFが整う前にアタックし得点していきます。

1Qは約4分間、両チーム無得点の時間がありました。お互いに波に乗れない中、帝京長岡のカンディオウラ選手(#14)が速い展開からインサイドでフィジカルにプレーし逆転します。このプレーでエースに火がついたのか、次の攻撃で富永選手(#7)が3Pを5本目にしてやっと決め、再逆転。極め付けはラスト3秒の超ロングブザービーター。これで一気に7点差にし、1Q終えます。桜丘の19点中16点を富永選手(#7)が占めます。

2Q序盤、桜丘は流れのこのままに、富永選手(#7)のステップバックジャンパーを決め、DEFでは連続ブロックで守ります。しかし、DEFコミュニケーションの甘い部分も出始めます。帝京長岡は、その隙をついたOFFを展開するものの、シュートが決まりきらず。しかし、OFFリバウンドやルーズボールで繋ぎ、徐々に流れを引き寄せます。その頑張りが実り、カンディオウラ選手(#14)が連続で6得点し、一気に1ポゼッションゲームに持っていきます。さらに1点差に詰め、「次のOFF決めれば」という空気の中、再びカンディオウラ選手(#14)がポストアップし、アタック。しかし、これが外れます。終わってから振り返るとこの時間が運命の分かれ目だったように思います。このあと、再び富永選手(#7)が爆発!立て続けに3Pを決め、ポストアップからバスケットカウントも決めます。もちろんFTも決め、一気に8点差まで広げます。この時点で富永選手(#7)は27点です。流れは桜丘。OFFリバウンドも取るようになり、周りが得点し始め、チームが回り始めます。帝京長岡はタイムアウト後の大事な攻撃でセットオフェンスをコールするもテンポが悪く守られてしまいます。流れ変わらず、桜丘が差を広げ、39-25で前半を終えることとなりました。



〈後半〉~安定したDEFと確率の高いシュートで点差を広げ続けた~

帝京長岡はファーストプレーでインサイドを強調し、得点します。また、ディフェンスでは富永選手(#7)にWチームを仕掛けます。

桜丘は準決勝同様、富永選手(#7)がWチームを受けるも、慣れと身長差もあり、簡単にパスを回します。フリーの味方にボールが回り、帝京長岡はクローズアウトさせられてしまいます。桜丘は自然とドライブが増え、インサイドでの合わせが生まれます。Wチームのデメリットです。また帝京長岡は富永選手(#7)とリバス選手(#10)のPnRに対してアンダーで守ります。ボールハンドラーが富永選手(#7)なので、リバス選手(#10)につくカンディオウラ選手(#14)は3Pを警戒して、富永選手(#7)に寄ります。この出方が中途半端でした。富永選手(#7)によるものの、思い切り出てプレッシャーをかけるわけではないので、ゴールに飛び込むリバス選手(#10)はフリーで富永選手(#7)もパスを狙う余裕はあり、リバス選手(#10)にゴール下でのショットを許してしまいます。

3Q中盤、疲労の見える富永選手(#7)をベンチに下げます。帝京長岡は点差を縮めるチャンスです。しかし、疲労からか試合が間延びし時間だけが過ぎていきます。3Qラスト3分でようやく得点し始めるものの、富永選手(#7)がカムバック。交代早々3Pを決めます。帝京長岡は富永選手(#7)不在時で2点しか詰められず、3Qのみで18-17。点差を詰めらず、4Qを迎えます。

4Qは帝京長岡ボールでスタート。ファーストプレーでカンディオウラ選手(#14)のアリウープを狙うも、惜しくもリングに嫌われます。反対に桜丘は帝京長岡のプレスを突破した小嶋選手(#6)がハーフライン越えたあたり、クロスオーバーでDEFを振り、アンクルブレイク!そのままゴールに向かい、リバス選手(#10)へアシスト。痛い出だしとなった帝京長岡ですが、積極的にプレーし続けます。カンディオウラ選手(#14)の3P、オールコートプレスからTOを誘発し速攻と帝京長岡が巻き返し、10点差まできました。

しかし、この大会で絶賛爆発中の富永選手(#7)がここでドライブからフローターで返し、簡単に10点差を割らせません。帝京長岡の傾きかけた流れを、エースがキッチリと引き戻します。

その後、帝京長岡が1桁差に持っていくも、リバス選手(#10)が外れたシュートを直接リングに叩き込み、プレスをかい潜ってタフショットを決めます。帝京長岡はオフェンスの精度が落ち、シュートミスやTOが増え、点差を詰め切れません。残1:43、富永選手(#7)がこの試合44点目となる3Pを決め、トドメをさします。

この試合は3年生のラストゲーム。最後は互いに3年生をコートへ送り出し、タイムアップを迎えました。76-65で桜丘が見事3位を勝ち取りました。


~桜丘高校のセットオフェンスをちょっぴり紹介~
3位となった桜丘のセットオフェンスです。かなり割合で使用しているので、セットオフェンスというより、ハーフコートオフェンスのエントリー的な位置付けだと考えられます。しかし、アウトサイドシュートあり、PnRもあり、ポストアップもあり、な富永選手(#7)を活かす設計となっています。また、スキあらばゴール下にロブパスを出してセンターの得点も狙えます。

初期配置は1-4です。1-4はバリエーションも多く、ペイントエリアにスペースも作りやすい形です。ベースライン付近に4人並びます。外側にフォワード、内側にインサイドプレーヤーを置きます。富永選手(#7)のように3PやPnRをさせたいプレーヤーと、最も高さがあり制空権を取れたり、ポストプレーができるプレーヤーを、外側と内側で反対サイドに位置するようにします。ガードがフロントコートに持ってきたタイミングに合わせて動き出します。

1. 富永選手(#7)がゴールにカットし逆サイドのローポストまで行きます。藤田選手(#8)はインサイド陣2人のスクリーンを使い、逆サイドウィングまでカットします。(AIカット)


2. ガードの小嶋選手(#6)はスクリーンを使った藤田選手(#8)にパスし、逆サイド切れます。そのパスがと同時に富永選手(#7)はベンツロバス選手(#12)にバックスクリーンをかけます。


3. ベンツロバス選手(#12)はスクリーンを使い、ゴールにカットします。ロブパスも選択肢の1つです。木村選手(#15)はスクリーナーの富永選手(#7)にダウンスクリーンをかけます。ベンツロバス選手(#12)はカットしたら、逆サイドのローポストまで流れます。


4. 富永選手(#7)は木村選手(#15)のスクリーンを使って、トップに上がり、パスをもらいます。ここで打てるなら3Pです。


5. 富永選手(#7)が打てなければ、木村選手(#15)がすかさずスクリーンをかけ、PnRです。富永選手(#7)はもちろんゴールにアタックします。富永選手(#7)のペネトレイトに合わせて、小嶋選手(#6)はコーナーにダウンし、スペースを作ります。このペネトレイトに対し、小嶋選手(#6)のマークマンがカバーしたら、小嶋選手(#6)にキックアウトし、フリーでコーナー3P。ベンツロバス選手(#12)のマークマンがカバーしたら、ベンツロバス選手(#12)に合わせられます。

★【2/5】オプション<富永選手(#7)のローポスト1on1>

藤田選手(#8)にパスをせず、ベンツロバス選手(#12)に入れて、ローポストの富永選手(#7)に入れます。ローポストからゴールまでの広いスペースで1on1が作れます。早めに仕掛ければ、カバーはいません。本来ボールの位置としては、藤田選手(#8)のマークマンが下がっているはずですが、最初のAIカットに対応しています。ここから急いでも間に合いません。またベンツロバス選手(#12)が自分のマークマンのスキを見てカットし、ファウルをもらいながら決める場面も見られました。

この形だけでも、狙い目がいくつもあります。また【4/5】の富永選手(#7)がスクリーンを使う場面で、マークマンがファイトオーバーしてきたら、カールカットでフリーです。DEFの対応に合わせて判断すれば、狙い目があちこちにあります。他にもたくさんあります!皆さんはいくつ見つけられるでしょうか?


〈まとめ〉
桜丘はやはり富永選手(#7)のチームです。富永選手(#7)が乗ってくるとチームに好循環が生まれてきます。何度か前半に何度か危ない時間帯はあったものの、乗り越えられたのはシュート力があったからだと思います。eFG%で常に相手を上回り、リバウンドで負けていた分をカバーしていました。

帝京長岡は、強度の高いDEFからカンディオウラ選手(#14)が先頭を走るOFFでいい形を幾度もの作るものの、最後の精度が物足りなかったです。2Q以降のリバウンドスタッツやポゼッションでは常に上回っていました。シュートがもっと入っていれば、と考えてしまいます。品川選手(#12)不在も響きました。

またスタッツだけでは見えてこない部分で桜丘の方上回っていた気がします。「ここを決めれば」というところで、帝京長岡が決めれず、直後に桜丘が決め、ピンチを脱出する場面が小さいものも入れると何回もありました。意図してプレーしていたかはわかりませんが、これは大事な力です。

最終日のこの試合は互いに疲労も見られ、タフな試合でしたが、互いに気持ちが見られた好ゲームでした。高校生は改めてシュート力が勝敗を分けウエイトが高いと感じました。この目線も踏まえ、現在行われているインターハイの予選から活かせてもらえたら嬉しいです。


プロフィール:SPLYZAの中の人

SPLYZA広報担当。日々SNSの更新やメールマガジンの作成、お客様のカスタマーサポートなどを行なっています。元バスケ指導者(AC)&アナリストの経験を活かし、コンスタントにバスケットボールの魅力を発信し競技人口を増やしていくことを目標に頑張り中。何かお困りの事が御座いましたらいつでもご相談&お問い合わせください。

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