DFBポカール2回戦 ライプツィヒ×ホッフェンハイム Vol.1「中盤の屋台骨」ディエゴ・デンメの分析

2018.11.11 written by Daichi Kawano(SPLYZA Inc.)

※この記事はSPLYZA Teamsのタグ付け機能から割り出されたデータをもとに構成されています。


この試合の主役は後半からえっちらおっちら重役出勤し、美味しいところだけ見事に持っていったティモ・ヴェルナーであることに誰もが異論は持たないと思う。ただ今回の試合のデータを抽出し分析を行なうと、とんでもないショートパスの成功率を誇るプレイヤーが居た。中盤の底で舵を握るライプツィヒの心臓とも言える小兵、ディエゴ・デンメである。その成功率は98%にも及ぶ。



ショートパスが放たれる際のキックフォームの美しさもさることながら、パスを受ける直前の予備動作が凄まじかった。コンマ何秒の間にルックアップし四方八方を瞬時に確認、相手のプレッシングが来ることを予測し半身で受けてひらりとターン。パスの導線が完全に確保され、正確無比なグラウンダーの素早いパスが味方の足元に見事に送られた。190cm近くの大男に囲まれようが何のその。そのクイックネスを活かしてスペースを素早く見つけ、前方へ「水運び役」のカンプルやザビッツァーにボールを受け渡す。

デンメの凄さはその判断スピードの速さにある。あたかも相手の圧力をかける方向を予知しているかのように太刀振る舞って見せるのだ。彼をライプツィヒが手放したくないのも当然である。昨シーズンは彼の欠場によりチームもどん底に陥った。デンメの空間認知と全員のポジショニングのズレから生まれる穴を埋める能力は残念ながら他のチームメイトは持ち合わせていない。現在リーグ戦で最少失点を誇り、バイエルン・ミュンヘンを追い抜いて3位にいるのも、彼を不在にしていないことが大きな要因だ。それほどライプツィヒというチームはデンメに依存しきっている。



彼の持ち場はゾーン2、つまりミドルサードと呼ばれる中盤一帯となる。チームの戦術上、中盤の底に大きな負荷がかかるが、デンメは飄々とタスクをこなす。昨シーズンから今シーズン頭にかけては様々なフォーメーションを試してはいるが、ライプツィヒお得意の4-2-2-2ではバランスを崩すことが多かったため、直近ではスターティングで4-3-1-2の布陣を取り、守備の局面で中盤の底に位置するイルザンカーが最終ラインに吸収され3バック(5バック)を形成し、デンメの負荷を軽減すすることで彼のパフォーマンスを最大限に発揮できるフォーメーションを主に採用している。

同じく中盤のカンプルとザビッツァーはデンメと縦の関係を築いている。守備の局面からポジティブトランジションに移行する際、低い位置どりをしたデンメにボールが収まると即座にその2人が列車のような配置になり、即興演奏のような見ていて心地の良いダイレクトでの高速ショートパスが展開される。ワンタッチパスの連続で瞬く間にミドルサードを突破し、ファイナルサードにいる2人のFWがゴールにボールを流し込むのだ。



このDFBポカール第2ラウンド、ホッフェンハイム戦でデンメはミドルサードでのボールタッチ数49回を記録した。チームトップの数字である。また左サイドバックのハルステンベルク、左の大外に張り出すことの多かったカンプルとのコンビネーションプレイが多く見受けられたため、自然とホットゾーンが左サイドに寄りがちなデータが出ている。選手間での距離感も良く、小刻みなハイテンポのパスワークでホッフェンハイムの陣形にギャップを作り、主にサイドからの攻撃を軸としたルートを見出して試合を優位に進めた。

時折ヘディングでのパスや、出しどころを相手に埋められやむなく中距離以上のロブパスを送り込まざるを得ない状況も生まれた。それらこそエラーが数本記録されたが、ピンチにつながるようなボールロストは皆無。ブレのない「中盤の屋台骨」としての役割を、デンメはこの試合でもしっかりとこなしていた。



またインターセプトやタックル成功数といった所謂「ボール奪取」に関する数字も、デンメはぶっちぎりでチームトップの数字となっている。ショートパス時の予備動作同様、フィールド上の盤面の予測・認知能力にも長けており、相手が少しでもトラブルを起こしかけると、初速の早いプレッシングで体をコツンとぶつけ、ノーファウルで華麗にボールを自分のものにしてしまうのだ。体の小ささは現代サッカーにおいてハンディキャップになると思われがちだが、デンメはフィジカル面でも全く劣らないデュエルの強さを見せる。偉大なる「小さな巨人」である。

現在は冬の移籍マーケットに向けてウエストハムをはじめとしたプレミアリーグ勢から目をつけられており、レッドブル側がどれほどの札束攻勢を受けるつもりなのか非常に興味深い。市場価値は1500万ポンド(日本円で約22億円)とイングランドからすれば篦棒に高い額ではないのだが、ラングニックはナーゲルスマンが監督の座に就くまでは、そもそもデンメを手放すつもりはさらさら無いはずだ。リーグ戦でも首位を狙える位置につけている。逆にライプツィヒとしては冬に盤石の補強をし、来シーズンへの揺るぎない基盤を築き上げておきたいところだろう。

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プロフィール:河野大地 (Daichi Kawano) アートディレクター/グラフィックデザイナー

宮崎県出身。株式会社SPLYZAにて主にクリエイティブに関する業務全般に従事。またスポーツアート分野のクリエイターとして、サッカーに関するインフォグラフィックやアートワークなども数多く手がける。4児の父。

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