【ラグビーワールドカップ特集】過去2大会におけるラグビー日本代表を分析 - 第1弾:センターにおける変化

2023.07.24 written by Yohei Yamamoto

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2015年のイングランド大会、日本は当時ワールドカップ優勝2度を誇る強豪南アフリカを34-32で下し、世紀の番狂わせを達成。また2019年の日本大会では、格上であるアイルランドやスコットランドに競り勝ち、プール戦全勝で悲願のベスト8に進出しました。そして本年、2023年の秋にはラグビーワールドカップ・フランス大会が開幕します。

前回、前々回とも世界を驚かせたラグビー日本代表ですが、今もあらゆる面で進化し続けています。というわけで、今回から数回にわたって、過去2大会(2015年および2019年大会)をデータおよびスタッツ分析をもとに、その進化に迫っていこうと思います。

2015年は現オーストラリアHCのエディー・ジョーンズ氏、2019年は日本代表キャップ9を持つ、ジェイミー・ジョセフ氏がHCでした。ラグビーはHCやコーチ陣によってチームの戦い方が大きく変化するので、日本も2015年大会と2019年大会では、至る箇所で「ラグビースタイル」の違いが見受けられました。

その中でも大きなスタイルの違いとして、センター(12番13番)に着目しようと考えました。そこで、私は前回2019年のプール戦4試合、前々回2015年のプール戦4試合をSPLYZATeamsを使い、スタッツの分析をおこないました。その結果から分かる、センターの役割の変化や、日本ラグビーを戦術的観点で考察していきます。



1. CTBでの出場選手の違い


まず、2015年大会ではセンターでプレーした選手が5人であり、12番で最もプレー時間が長かったのは立川理道選手、13番はマレサウ選手でした。



立川選手は、10番スタンドオフで出場する試合もあり、キャリー、タックル、キック、ゲームメイク、の全観点で評価され、BKフロントスリーを全てこなす役割を担っていました。

2019年では、全試合12番中村選手、13番ラファエレ選手がスタートメンバーとして出場しました。2選手とも驚異の300分超え、ラファエレ選手は全試合フル出場であり、2019年大会において絶大な信頼を得ていたと言えます。まさに「替えの効かない選手」でした。



2. 2015年と2019年における12番(Insidecenter)

以下にスタッツにおける、グラウンドの位置をカラー分けによって使い分けを記述しておきます。

・敵陣22m~TRYライン(BLUE)
・ハーフライン~敵陣22m(YELLOW)
・22m~ハーフライン(GREEN)
・自陣側~22m(RED)

としています。



また、グラウンドの両タッチライン~15mまでをedge、15m~15mの間をmiddleと分類しています。



それでは次に、具体的なスタッツについてみてみます。



12番のスタッツとして、2015年から2019年ではPassの増加、carryBD参加の減少が大きな特徴でした。

Passの増加については、2019年では両WTBに「松島選手、福岡選手」がおり、大外のスペースでランナーにボールを渡すために、12番の選手はcarryではなく、Pass選択する機会が多かった一つの要因であると考えます。また、10shapeのレシーバーに入ることがあり、こちらもパス回数が伸びたことに繋がりました。

carryについてさらに詳しく見てみると、2015年(下記の図左)では、敵陣(YELLOW+BLUE)に侵入してからのキャリー数が多いことも特徴的です。継続することを大きな目標とし、ゴール前でキャリー数を増やし、フィットネスで勝ちながら粘り強くTRYを取り切りたいという狙いがあったと推測できます。

2019年(下記の図右)では、carry数が半分に減少し、2015年程の「縦への突破」はデータ上では見られませんでした。グラウンド横のエリア別でみると、2015・2019年ともmiddleでのcarry数が多くを占めており、edgeへの侵入はあまり見受けられませんでした。



その他のスタッツをみると、2019年では、タックル数が2015年を勝る回数であったことや、FWのポットに入ってたことから、中村選手のフィジカル的献身性の高さがうかがえました。

続いて、13番のスタッツをみてみます。



12番同様、Pass回数の増加が見られますが、carry数やBDへの参加頻度はおおむね変化がないと読み取れます。

Passについてですが、両ウイングやedgeのFWへのつなぎ役となることでその数を伸ばしていました。また、スタッツでは現れにくいですが、13番のラファエレ選手は通常のPassに加え、タックルを受けながらPassをするoffloadPassや、片手でのバックフリップパスを繰り出し、高度な技術をハイプレッシャー下において何度も実現させ、卓越したPassスキルを披露していました。

Passについても詳しく見てみます。



2015年はPass回数が4試合の合計で8回、1試合当たり2回(うち、立川選手が13番で起用された試合で7回)であるため、そもそもの比較として、Passの役割を求められていなかったと推測できます。

しかし、2019年では大きく増えたことが分かります。エリアをみると、敵陣での回数が多く、さらにはパスの約40はedgeで行われ、グラウンドをワイドに、深く展開していく狙いがあったと考えます。

次にcarryについてですが、2015年は24回、2019年25回と同数のように見られますが、下記のデータを見るとその「質」の違いが見えてきました。



2015年では、carryする地点の80%がmiddleであるのに対して、2019年はmiddleでのcarryは約20%。つまり、2015年はグラウンド中央付近でのcarryが大半なのと比較して、2019年の13番はmiddleから離れ、edgeでのcarryに変化していったと言えるのです。まさに、グラウンドをワイドに使いながら、DFラインを突破しようと試みていたことが分かります。

その他のスタッツをみると、2015年では1本であったキックも2019年では4本に増え、grounderkickについては3本すべてedgeから、DFの裏側へと転がしていました。タックル数の減少については、外でのポジショニングが増えたことや、ATの時間が長かったことによる原因だと推測します。

この様に、13番はグラウンド上でのインサイドワークが減り、アウトサイドワークが増えたことが分かりました。そして、キック、DFruck、Passなどある程度自由にプレーさせることで、よりスキルフルなラファエレ選手が活きる形で全試合で起用していたと考えられます。

3. まとめ

2015年、2019年のセンターの役割やデータをグラフにしてみます。



完全に独自観点ですが、2015年2019年におけるセンターのタイプが分かるのではないでしょうか。2015年の12番は、積極的なBDへの参加がみられ、middleでのプレー選択が多くとられました。2019年では2015年同様、middleでのプレーは多く見られましたが、BD参加は減り、Pass、タックルの回数が増加しました。13番では、12番と比較しても、よりプレースタイルの変化が激しかったと言えるでしょう。

2015年はミドルでのBD参加、タックルが多く、縦にボールを動かす役目でしたが、2019年では、edgeでのアウトサイドワークが増加し、キック、Pass、BDと多様なスキルが必要なポジションであったと結論づけられます。

2023年ワールドカップがあと50日に迫っています。直近の3試合では、いずれのセンターのスタートメンバーは変わっており、誰が起用されるのか、どんなプレーを見せてくれるのか目が離せません引き続き、ワールドカップ分析を行っていきたいと思います。

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プロフィール:山本陽平 (Yohei Yamamoto)

2000年生まれ神戸市出身。現在は奈良教育大学在籍中。高校からラグビーをはじめ、現在はプレイヤー・コーチ・アナリスト・ラグビー普及活動と多岐に渡る。ラグビーの素晴らしさをもっと広めたいと考えながら日々活動中。