【ラグビーワールドカップ2023】 試合分析レポート - プールD 第1戦 日本代表 vs チリ代表

2023.09.14 written by Yohei Yamamoto

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2023年9月8日、ラグビーワールドカップ2023フランス大会が開幕しました。開幕戦は、開催国フランスとラグビー王国ニュージーランドの対決でしたが、フランスの多彩な 攻撃と個人スキルの高さを発揮し、開催国勝利で開幕しました。そんな中で、日本(世界ランキング14位)は10日にチリ(世界ランキング22位)との対戦を迎えました。大会前、試合前インタビューでも多くの代表選手が「初戦のチリ戦が大事」と話す中、42-12で日本は勝利を飾りました。

この記事では、日本vsチリ戦をSPLYZA Teamsを使用し、両チームの特徴や、日本の狙い、強みを分析していきます。また、そこから見えてくる、次戦のイングランド戦にむけてのキーポイントも考察します。



1. 日本とチリの基本スタッツ


日本は、チリに先制されるも、前半3TRY後半3TRYを上げ、ボーナスポイントを含む勝ち点5を獲得しました。全てのコンバージョンゴールを決めた松田選手も大きな勝利の立役者となりました。スタッツをみると、チリのruck数の多さ、日本のtackle数の多さが際立ちます。また、日本はpassの数はチリと同等でしたが、kick数は大きく上回っていました。このことから、「ボールポゼッションのチリ」と「エリアテリトリーの日本」の構図が見られたと言えます。

チリは自分たちの攻撃時間を増やすために、エリア<ボール保持を優先し、勝機を伺っていました。実際に、ラック数が100回を超え、ボールを保持する故、タックル数の減少に現れていました。日本は、9番流選手を中心にhigh puntを使い、エリアを積極的に奪うことでDFからのプレッシャーを軸に試合展開していたことが、タックル数増加に繋がりました。

2. 日本に見るキック戦略


日本は、前半と後半を比較すると、キックの数を倍近く伸ばしています。その理由として、前半では敵陣でのアタックの時間が増えていたこと、後半はボーナスポイントを獲得したことで、よりテリトリーとDF重視に軸を置いたことなどが考えられます。

さらに詳しく見てみると、両チームともSHからのキックが目立ちました。先日の記事(Kick in fieldにおける変化)にも記載しましたが、昨今のラグビーではSHにキックスキルは無くてはならない必須スキルであることの象徴であると感じました。

しかし、日本はBK3(WTB、FB)からのキックが8本あり、カウンターや、自陣でもアウトサイドエリアからのキック戦術をとっていました。

3. Passから見るエリア戦術

次に、パスについて詳しく分析します。下記のデータではエリアを独自のカラー付けにより分析しています。



Passの数は日本116、チリ117とその数に変化はありませんでした。しかし、パスが行われているエリアには大きな違いがありました。日本はハーフウェイラインを超えた敵陣でのYELLOWゾーンでのパスが多く、自陣での余分なPassを減らす狙いを持っていました。対してチリは、自陣からボール保持するために、ハーフウェイを超えていないYELLOWゾーンでもパス回数を重ねていました。ここでも、両チームの戦い方の違いが見られました。

4. 日本のRuck

次に、ruck についても詳細を見ます。

日本は、BLUEゾーンでのラック数が最もおおく、敵陣でのアタックは順目にshape気味に走り込んでいくスタイルであるように見えました。このデータからもエリアを意識して攻撃していたのかが分かります。

また、上記のデータから、チリはおおよそ1つのパスに対して1つのラックを形成していることが分かり、ダイレクトプレーが多いと読み取れます。実際試合の中でも、直接ラックサイドに持ち出すプレーが幾度も見られたこととも整合性がとれるでしょう。

以上、チリ戦を見てきましたが、チリは日本に対して、ポゼッション重視の戦略でフィジカル的にプレッシャーをかけてきました。それに対し、日本は徹底したテリトリー戦略と粘り強いDFでチリに勝利したことが分かります。両チームの世界トップクラスの駆け引きがいくつにも見られた試合となりました。

5. 「イングランド戦」への展望

次戦のイングランド戦に向けては、以下がポイントになると推測します。

(1) エリアマネジメント
(2) バックフィールドの攻防

(1)についてですが、イングランドは世界屈指の強豪であり、特にBKには一人でTRYまで運ぶことのできる屈強なランナーが名を連ねます。その様な中で、そのランナーたちを自由に走らせるようなプレゼントボールを限りなく減らす必要があります。そのためには、チリ戦でも見せたような、SHからのhigh punt、BK3からのキック、SOからの駆け引きのあるキックなど、いろいろなバリエーションを見せていくことがキーになると予想します。

(2)についてですが、イングランドはSH、SOからのhigh puntを主軸にしたスタイルが得意です。そうなれば、日本側にDFや、ハイボールでプレッシャーをかけてくることが予想でき、そこに対して対処できれば、接戦に持ち込むことに繋がると考えます。チリ戦ではあまりバックスペースの連携は見られませんでしたが、かなり重要な要因となることは間違いないでしょう。

いずれにしても、どのような戦い方を両チームとも披露してくれるのか、分析をする身としては楽しみです!また、1ファンとして日本の勝利を応援したいと思います。

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プロフィール:山本陽平 (Yohei Yamamoto)

2000年生まれ神戸市出身。現在は奈良教育大学在籍中。高校からラグビーをはじめ、現在はプレイヤー・コーチ・アナリスト・ラグビー普及活動と多岐に渡る。ラグビーの素晴らしさをもっと広めたいと考えながら日々活動中。